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「世界で一番好きな景色なの」 「…えっ?」  今度は、僕がきょとんとする番だった。 「えっと、それは…」 「うーん…説明しても理解してもらえないかもしれないんだけど…っていうか、考えてみれば、人に話すの初めてかも」 「……へぇ」  透明な傘。ぱらぱら、じゃなくて、しとしと降る雨。そこに映るものが、市來さんの、世界で一番好きな景色。  現時点で得ている情報を言葉にしてみても、やっぱり分からない。でも、興味はどんどん加速する。  今まで誰にも話していないこと、それを、今僕に初めて話そうとしている。  もう、周りに人がいるとかいないとか、どうでもよくなっていた。  市來さんと僕しかいない、放課後の教室が、今この瞬間もそのまま地続きになっているかのようだった。  けれど、頬にすっと触れた何かで、現実に引き戻される。  それは、空から落ちてきた一粒の雫だった。
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