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「…ビニール傘って、透明だから、前がよく見えるでしょ」 「…うん」  それは、さっきも僕が言った。 「雨が伝っていくのも、よく見えるでしょ」 「…傘に?」 「うん。何て言ったらいいのかな…、こういう通学路とか、見慣れた風景が、雨の日にこのビニール傘を差すだけで、全然違く見える。傘越しに濡れている感じとか、目の前を雨が流れていく感じとか……すごく綺麗だなって、私は思うの。雨が降るだけで、世界が一変する」 「色のついた傘だと、それが…見えない」 「うん。視界が覆われちゃうから。ビニール傘じゃないと意味がないの」 「透明じゃないと、駄目なんだね」 「そう。本当に、ただ見ているだけで、自分の心にも雨が流れ込んでくるっていうか…でも哀しい感じではないの。心が洗われる、って言えばいいのかな。そういう景色を、こんなに身近で見ることができるなんて、素晴らしいことだなって私は思うの。たかだか十ハ年しか生きていなくて、知らないこととか見たことないものとかたくさんあると思うけど、でも今の私は、透明な傘の向こうで濡れていく景色が、一番なの。世界で一番好きな景色なの」
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