透明に伝う

【４】

　ぽつり、ぽつり、と雫が落ちる間隔が狭まっていく。市來さんも、雨が降ってきたことに気付いたようだった。でもこのくらいじゃ、きっと物足りないんだろう。

「…大した理由じゃなくてごめんね」

　さっきまであんなに嬉々とした様子だったのに、市來さんは自信無さげに小さく笑った。僕は勢いよく首を振った。

「そんなことない」

「なんか、熱弁しちゃった…ごめんね」

　ビニール傘に込められた思いの丈を語ったと思ったら、急に減る口数。沈黙の中に、雨の音が静かに響く。

　俯きがちの市來さんに、かけたい言葉はたくさんあるはずだった。でも、正直それは今にも溢れそうで、そこからどれを選び取ったら適切なのか、分からなくなった。キャパオーバー状態だった。こんな気持ちになるのは、初めてだった。

「すごく…良いことだと思うよ」

「…ほんとに？無理しなくていいよ」

「無理してない」

　いつになくはっきりとした自分の物言いに、自分で驚く。市來さんも驚いた顔で、僕をまっすぐに見つめた。思わず目を逸らしたくなったけれど、今それをやっては駄目だと思った。

　市來さんは、今まで誰にも言ってこなかったことを、言わば自分だけの秘密を、僕に打ち明けてくれたんだ。その誠実さを、裏切るようなことはしたくない。

　それに僕は、本当に凄いと思ったんだ。