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「僕は、市來さんの心が綺麗だと思った」
「…心？」
「うん。普通の人だったら見過ごしちゃうようなことを、しっかり見つめて、感じ取って……それって、心が豊かで、繊細で、綺麗な証拠だと思うよ」
「それは…ちょっと褒めすぎじゃない？」
「いや、本当だよ」
お世辞でもないし、大袈裟に言っているわけでもない。それが僕の正直な気持ちだった。感動した、という台詞は、こういう時に使うのが実は正しいのかもしれない。
雨も、ビニール傘も、ありふれたものだ。日常の中の一部で、特別感はない。
でもそこに尊い価値を見出した市來さんに、僕の心は確かに大きく動かされた。
「…市來さんは、やっぱりすごいな」
「えっ？」
「いや、なんか…頭が良くて、機転が効いて、皆から好かれていて…でもそれだけじゃなくて、感性も。他の人より、見えている範囲が広くて、深いような気がする」
「だからー…褒めすぎだってば。私なんて、どこをどう切り取っても平凡だよ」
「そういう、謙虚な所も」
「もうー…何なの河野くん」
ぷい、とそっぽを向いて足を速めた市來さんもまた、良いなと思った。
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