透明に伝う

【４】

　楽しそうに笑う市來さんの声が、静かに降る雨と調和して、とても心地良かった。

　僕はあまり背が高くない。市來さんとほぼ同じくらいだ。

　こういう時、普通は男子が傘を持ってあげるんだろう。つくづく、自分はダメだなと少し落ち込む。

　でも、つまり今僕は、市來さんと同じ目線で、同じ景色を見ているということだ。市來さんが、世界で一番好きだと言う景色。

　透明な傘に伝っていく雨。ランダムな筋を描いて、足元へと落ちていく。雨が止まない限り、その流れは永遠に続いていく。

　二人で一つの傘は、やっぱり少し狭かった。

　あまり近づきすぎると、内心のパニックが表面化してしまいそうだったから、僕は歩きながら、数ミリずつ左隣の市來さんと距離を開けていく。気付かれない程度に。だからそれに比例して、湿っていく右肩の範囲が広がっていく。