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嫌じゃない。そういうことじゃない。
はっきり否定したかったけれど、余計な気持ちまで一緒になって溢れてしまいそうだったから、上手く言葉にできなかった。
–––何で、もう駅に着いちゃうんだ。
この時間が、いつまでも続けばいいのにと思った。終わってしまうのが、惜しかった。
「…綺麗だね」
「河野くん、ほんとに思ってる?」
「思ってるよ」
目の前の景色が、と言うより、さっきも言ったけれど、市來さんの心が。
それから、世界で一番好きな景色を見つめるその横顔も。
「ねえねえ、リュックの中びしょびしょになっちゃうよ」
「待って、本当に開いてるの?」
からかわれていることすら、なんだか楽しくて。僕は、気付かれない程度に少しずつ歩調を緩めていく。でも、勘の良い市來さんにはそれもバレてしまうかもしれない。
それならそれで、いいや。
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