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その日は、とてもひどい夕立ちがふった日だった。
「ピンポーン」
どこか重いピンポーンが、マンションワンフロアぶち抜いたそのフロアに、鳴り響いた。
「パパ」
「はぁい九九。一週間元気してた」
「うんパパ九九は、元気してましたよ」
……そう……僕は、この無垢な笑顔に会うため、週に、一度ここ、天下の文豪暁美 乱独邸へとやってくる。
「あら佐藤さんこんには」
「ああ、明日香さんおはようございます」
暁美 明日香
いつもの日曜日と変わらない日常。
「あの……空は、今日も仕事ですか」
「うんそうなのよね。あの子休みあるんだかないんだかねえ~日曜ぐらい休めばいいのにねぇ」
「ええ……まぁ」
僕と空、暁美空は、去年の8月に、書面上正式に離婚が成立している。
「ねぇパパこの人だれかわかる」
「え?」
そこには、見知らぬ男が、ひとり、机にむかい伸びた髪をかきむしってすわっていた。
「え?だれ?」
「んとねマスカキさん」
「おい」
男は、血走った目でこちらを見る。
「あのね、かわいいかわいい九九ちゃん。何度言えばわかるかなぁ……おじさんは、トキ後藤時、時のトキ。あのくそじじぃにもといあの高名豊かなおじいさまに、何を教えこまれたかわからないが、おれは、時、後藤時だよ。」
その謎の男、後藤時は、そういうと、再び机に、向かいマスをもといなにかをカキカキと書きだした。
「その人は、後藤時さん。空が連れてきて、今は、父さんのアシスタントけん弟子」
「弟子?」
「そう弟子。佐藤さん以外のはじめてのお父さんの弟子」
暁美乱独。彼は、自身のためになると思ったものしかその手元に、おかない。
僕は、それをいやというほど知っている。
「あの……後藤さん……」
後藤 時。
「あのよかったら……よかったらでいいんですが、少し……ほんの少しでいいので、今書いている分読ませてもらってよろしいですか」
「え……ああ…いやだれかしらないけど」
「九九のパパだよ」
「え……ああそう」
僕は、これでも、細くでは、あるが小説で飯を食っている小説家……
興味がある。あの暁美乱独が結縁以外で手元に、おく物書き……
僕は……僕は……
「………………」
「ちょ佐藤さんなにしてるんですか!?」
明日香さんのその言葉でわれにかえった。僕は、その紙を握りつぶしていた……
な……なんだこれ……
「こ……こんなの……きもちわりんだよ!?」
「え?は?」
「ちょ……ちょ……お父さん!?」
駆け出した明日香さんも気にならないくらいに、僕は、動転していた。
「くそ……くそ……」
虚無感……その気持ち悪いぐらいに、圧倒的に、あらたな物を産み出す才能……
「くそ……くそ……」
崩れ落ちていた。僕は、その場で、ひとつの、人生の終着点迎える……
「くわっ…………」
泣き崩れる……しかも娘の前で大声をあげて……
それ以来……僕は、ペンをもつのをやめた……そして、かるく人間もやめることになる。
「じゃあねくく……」
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