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映画のカーミラは綺麗なドレスを纏った妙齢の女性。片や教壇の前に立つ転校生の彼女は、中学校指定の地味な制服を纏った少女。それでも、纏っている雰囲気はそっくり。
作品の中には人間の世界で生きられるよう適応、進化して、人間に紛れて住んでいるモンスターも居ると書かれていた。本当なんだ。きっと彼女がその一人なんだ。
じっと彼女を見つめていると、目を伏せた彼女と一瞬、目が合った気がした。胸が高鳴るのを感じる。周囲の席の男子がざわめく。
「やばい一目惚れかも」
「俺、告白しようかな」
「おいおい気が早すぎるだろ」
わたしは胸の鼓動を治めるために、何度か深呼吸をした。
「じゃあ、夜辺の席は一番後ろのあそこな」
男性教諭が指し示すと、彼女は何も言わずに小さく頷いて最後尾列の席へと向かう。
金色のサラサラと揺らして、体の軸がブレずに真っ直ぐ歩く。まるでモデルみたい。わたしの隣を通過する時、ふわりとお菓子みたいな甘い匂いが漂った。大人びた彼女らしくない、子供っぽい匂い。
♯♯♯
授業と授業の間、休憩時間。転校生への興味から授業中もずっとソワソワして、いてもたっても居られなくなったわたしは、勇気を振り絞って話しかけた。
「こ、こんにちは。夜辺さんっ」
「何?」
緊張しながら話しかけるわたしに、夜辺さんは興味無さげに顔を動かさず、冷たい視線だけをこちらに向けた。少し、萎縮してしまう。
周囲のクラスメイトの視線がわたしと夜辺さんに集まる。ムスッとして近寄り難く話しかけても無愛想な人外の転校生に、みんな興味はあるけれど会話を続けるきっかけを掴めずにいた。夜辺さんの隣の席のお調子者男子が授業中に話しかけて、あしらわれるように撃沈していたのもそれに拍車をかけていた。
クラスメイトは会話を続けられるきっかけを作れる人間。チャレンジャーもしくは人柱を待っていたのだ。
沈黙の壁に挑む無謀なチャレンジャーがわたし。地味でクラスメイトに自分から話しかけることすら少なく、夜辺さんのような子とは、卒業まで話すことすらなさそうな自分が挑戦者に名乗りあげたのだ。
クラスメイトは固唾を飲んで、わたしたちの会話を見守る。
わたしは更に緊張してしまい、次の言葉が出なくなってしまう。授業中に先生に見えないように机で隠しながら、スマートフォンで「自然な会話」と検索して、何パターンかの会話内容をシミュレーションしたのに、そんなものは彼方へと飛んで行ってしまった。
「えっと、その……」
どもるわたしを、訝しげに見つめる彼女。その目に睨まれているような気がして、わたしの頭の中は更に混乱し、こんがらがって言葉が単語になってくれなくなる。
「げ、元気……?」
クラスメイトの落胆の声がはっきりと聞こえた。
彼女は眉間に皺を寄せ、更に訝しげな顔。不審者でも見るような目でわたしを見る。彼女から返事はない。
わたしはいたたまれない気持ちになり、そそくさと自分の席に戻って机に突っ伏した。恥ずかしさから頬が熱い。
「ナイスファイトだったよ。咲希ちゃん」
友人の声が聞こえた。
励まさないでよ。余計に惨めな気持ちになる。
右腕に巻かれたブレスレット――いくつかの半透明のカラフルな石に紐を通して繋げたもの――に触れる。
「それ、ずっとつけてるよねえ」
「うん。お守りみたいなものだから」
友人は何か思い至ったらしく、一瞬目を見開くとお守りから目を逸らした。
「ああ……ごめん」
苦い顔をする友人。こちらまで気まずくなってしまいそうで、わたしは努めて笑い、おどけてみせた。
「もう、昔のことなんあだから、気にしないでよう」
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