8人が本棚に入れています
本棚に追加
出合い
「ねーねー!なっちゃん!あの人格好良くない?」
たくが背後から絡んできた。酒のせいで普段から舌っ足らずのたくはそれが増している。今日も行きずりの相手を探す為にたくと共に、ゲイバーに連れ立ってきた。俺とたくはここの近くの大学に通っている。ここに通う様になって1年が過ぎようとしていた。ママは「若い子がいた方が良いでしょ」というノリで未成年の俺たちも入店させていた。
「なっちゃんー!聞いてるー?」
「聞いてるよー!どの人?」
「あのカウンター座ってるサラリーマン!」
カウンターに目をやると、如何にも人当たりの良さそうなイケメンがいた。
「え、、、かっこよ」
思わず呟いてしまった。見た瞬間、心臓を抉られた感覚に陥った。何としてでも、手に入れたい衝動に駆られた。
「声掛けようぜ」
「なっちゃん、待ってー。俺も声掛けるー!」
近くまで来てみると、俺なんかが声を掛けて良いものか悩むくらいのイケメンだった。いつもの軽い感じでいけば良いはずなのだが、らしくもない、緊張して一歩が出なかった。
「こんばんはー!お兄さん、格好良いねー!」
今回ばかりはたくに助けられた気がした。俺は心の中でたくに向かってガッツポーズをした。
「こんばんは。あれ、君たち若いよね?」
「俺らねー、大学生なのー!同じ大学ー!」
「大学生?遊びたい盛でしょ。ここには良く来るの?」
「俺ら?まぁまぁ来てるー。大学が近いんだー」
俺は話に入れずたくの後ろに隠れていた。「どーしよ。いつもの感じが出ない」と内心焦っていた。どうせ誰も本気にならない場所なんだから、いつもの様に軽く切り出せばいいのにと。たくの後ろから男性の方をちらっと見てみた。目が合い微笑んでくれた。もうそれだけで、堪らなかった。
「なっちゃーん?何で隠れてんのー?」
たくに促されてドキリとした。いつもの感じを出そうと取り繕う。
「お?お!隠れてないよ!様子見てたんだよ!」
不自然にならない様にしたが、どう見えただろうか。不安で仕方なかった。「こんなのいつもの俺じゃない!」そう思いながら、笑顔を強張らせた。
最初のコメントを投稿しよう!