安定剤

①

　ナナを居酒屋の外で待たせ、翔は席にふたりの荷物を取りに行った。ふたりの大体の飲み代を渡し「抜けるわ」と夏樹に一言掛けると、近くにいた愛理がびっくりした顔をした。そんな事はお構いなしに、居酒屋を出た。

　ナナのマンションは近かった。防犯用でオートロックに決めたらしい。翔みたいな男が入ってしまうなら、防犯にはならない疑問もある。ナナが解錠している時に、ラインが鳴った。浩輔だなと思ったがここまで来て楽しまない訳はないと、スマホを見ずにナナの部屋に上がり込んだ。