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輝く朝日に目を細めながら、白石洋一はいつも通り起床する。さっとカーテンを開けるとそこには澄んだ青空と緑の豊かな森が見える。それが洋一の住む夕張村の特徴である。洋一はしわしわになったパジャマからきちんとしたシャツに着替え、スキップをしながら父と母のいるリビングへ向かう。 「洋一、12歳のお誕生日おめでとう。」 と、父と母から祝ってもらった。その後、赤い紙で綺麗にラッピングされたプレゼントももらった。父と母から祝ってもらったおかげで、今日はいつもより朝ごはんを多く食べてしまった。そんな心地よい雰囲気がリビングにはあったが、学校に行く準備をしないと、と洋一は自分の部屋に戻った。 「1時間目は算数で、2時間目は英語と。」 と、洋一が教科書とノートの確認をしていると母が 「洋一!そういえば、渡したいものがもう一つあるんだけど。」 と言われ、洋一は親戚のおばさんのプレゼントかな、と少し期待したもののその期待は裏切られた。母は、桐か桧でできた高そうな箱を洋一に丁寧に渡した。中を開けてみると、そこには洋一の顔とそっくりなお面がしっかりとした綿の梱包材に包まれて入っていた。そのお面は微笑を浮かべながら、洋一を見つめていた。 「うわぁ。何これ、こんなものいらないよ!」 と大きな声で威嚇するかのようにお面が入っている箱から離れる。 「これはとても大事なものなのよ。洋一が大人になるときに必ず必要なものなの。大人はこれを働くときにはいつもつけているわ。だから洋一も大人になって欲しいな。」 と母が洋一に語りかけてくる。洋一は、少しの拒絶感と警戒心を見せながらもそのお面を手に取り、自分の顔につけた。お面の着け心地は悪くなかった。紐の部分も痛くなることはなく、お面が自分の顔を隠しているという何とも言えない「秘密」という言葉がもつ魔力に導かれていった。そんなことを思っていると 「洋一、学校に行く時間になったよ。早く行っておいで。あと、そのお面はこれからは基本家以外の場所では着けておくこと!いいね?」 「分かったよ。じゃあ行ってくるね。」 と聞き流した。カタカタという音はうるさいし、呼吸もいつもと違ってしにくいなと思っているが、外しているときっと母に怒られるだろうと思ったので仕方なく着けた。クラスメイトや通学の時に誰かに笑われるのではないかとビクビクしていた。 朝の会が始まる15分ほど前に、洋一はいつも学校に着く。木造で少し古いが、雰囲気のある校舎を走り抜け、6年1組と書かれている教室に入る。一番後ろの列の窓際にある、自分の机にランドセルを投げ捨てて、友達である高田祐希の方に歩みを進める。 「おは、祐希。」 「おはよ。昨日のパルクールマンみたか?あれ超かっこいいよな。」 と、たわいもないテレビの会話をする。そこで洋一はある違和感に気付いた。あれ、なんでみんな俺がお面を着けていることが気付かれないのだろう。学校での通学路を思い出す。家を出て、住宅街を抜けると目の前には交差点が見える。そこには、交通指導員のおじちゃんがいるはず。朝の挨拶を済ませて、歩を進める。おじちゃんとは顔見知りだから、顔を合わせているはず。そう自分の記憶を便りにこの現象を理解しようとするが理解できない。 「おい、どうしたんだよ。何か考え事でもあるのか?」 「いや。何でもない。そういや俺の顔に何か変なところでもないか?」 「全く違和感ないが…… 強いて言うなら少し機嫌が良さそうだな。あ!!今日は洋一の誕生日じゃん、ハッピーバースデー!」 と会話が誕生日の方向にずれてしまったので、洋一も一旦お面のことについて考えるのを止め、純粋に誕生日を友達に祝われたことを喜んだ。二人が楽しく会話していると、担任の先生である福富優先生が話し合いに突然参加し始めた。 「いいなぁ。お前たちはお互いに誕生日を祝える友達がいて……俺なんか……」 と先生が言葉を詰まらせたので、さすがに洋一と祐希も気まずくなってフォローする。 「まぁ、先生は恋人を見つけられる年じゃん?」 「そうそう。いい相手見つけなよ。」 「ありがとな。やっぱりこのクラスはいい奴らばっかりだな。」 と先生はしみじみ感じている。 「そういえば……」 と何か思い出したように洋一を教室の外に出るように促す。 「洋一。先に向井達と移動教室行ってるからな。」 と告げて祐希が立ち去る。 「何か話でもあるんですか?」と均衡を破るように洋一が尋ねる。 「あぁ。お母さんから今日の朝電話があってだな。洋一にお面を渡したと聞いたんだが。」 「貰いましたよ。そして今も着けてる。、、、ほら。」 と着けていたお面を外す。お面を着けていた時よりも視界に光が差してきて少し眩しく感じる。 「とらなくてもいいんだ。この地区では大人になるために12歳になるとお面を着けるんだ。これを着けていると自分の本当の顔が見えなくなるだろう?これが大事なんだ。だから基本学校に来るときは着けておけよ。」 「分かりました。」 と軽い返事だけをして教室を後にする。母からは何も説明がなくただ着けろと言われていたので、反抗的な気持ちになってしまったが、先生が言うなら、とこれからはちゃんと着けておこうと肝に銘じた。1時間目は家庭科室で裁縫の授業だということを思い出し、急いで向かう。家庭科の先生は奥川泰代といい、この小学校の中で一番遅刻に厳しいといわれている先生である。遅れないようにと懸命に廊下を走る。埃と蜘蛛の巣のはった窓ガラスの外からはアブラゼミの声がひっきりなしに聞こえてくる。セミの命のような儚さと共に洋一のお面に対するプラスのイメージもすぐに消えていくことになるとは知らずに……
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