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「ナナース、聞いて。月が信じられないくらい大きいんだ。
今夜がスーパームーンだなんて、もしかしてこれも何かの縁かもな」
感動に酔い痴れていたホクアースのもとには、
予想だにしない戸惑いが返ってきた。
「え? そんな情報、こっちには入ってきてないけど……」
「いやいや、今もずっと大きくなってるぜ。あっ……」
真相に勘付いた彼は、思わず目を瞑り、額に手を当てた。
「……ったく、天体は世話が焼けるな。
月だけは優等生だと信じていたのによ」
同じタイミングで事情を察したナナースはここぞとばかりに、
緩む口を押さえて高らかに命じる。
「ホクアースに更なる任務を依頼するわ。
月が地球に急速接近中。直ちに軌道修正をお願いするわ」
「了解。で、この任務に当たるのは俺1人……?」
柔和な彼女の表情が突として、厳しく豹変した。
「ちょっと甘やかしたら、何でも他人に頼ろうとして。
それぐらいどうってことないでしょ?」
ホクアースは白い溜め息を吐くも、
それに不思議とネガティブさは混じっていなかった。
「分かったよ。アメとムチが絶妙だな」
隅に北極星の映る瞳は、巨大化の進む月一点に対して向けられていた。
今の彼は1人だが、孤独ではない。
「只今より、任務を遂行する」
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