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 矢庭に、ホクアースと地平線の奥を繋ぐ釣り糸がまっすぐ張り出した。 力をほんの一瞬緩めるだけで、地から足が離れてしまいそうなほどに引きは強い。 「掛かったな! さぁ、頼むから溶けてくれるなよ……」 独自に改良を重ねた釣り糸が無残に焼き切れはしまいか、 ホクアースは危惧する。 いくら耐熱加工が施されていると言えど、 100万度を超える最外層大気(コロナ)中に長時間あれば、いつ焼失してもおかしくはない。 また、黒点に突き刺さったかぎ針がそこから少しでもずれれば、 我を失った奴が激しく暴れ出す、と予測が付いていた。 「見えない獲物と闘うのは案外手こずるな。  だが俺も、伊達に天体指導係を務めてないぜ。おらよ!」 彼は特訓の成果を見せるように、慣れた手つきで釣り竿を上下左右に振る。 確実に手応えは感じていた。拳の表面に浮き出た血管がいつになく赤い。  だが、太陽はその顔を地平線上にさっぱり現さなかった。 一向に進展しない状況が、刻々と苛立ちを募らせる。 「くそっ、ご機嫌斜めか? こっちには時間制限があるってのによ!」 ホクアースの思いとは裏腹に、精彩を欠いた釣り竿捌きによって、 かぎ針が躊躇なく獲物の内部を抉ってゆく。 肉を切られる鋭い痛みを覚えた太陽は、すぐさま灼熱の牙を剥いた。 殺気と共に燃え盛る紅炎(プロミネンス)が、釣り糸を伝って彼に襲い掛かる。
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