53人が本棚に入れています
本棚に追加
矢庭に、ホクアースと地平線の奥を繋ぐ釣り糸がまっすぐ張り出した。
力をほんの一瞬緩めるだけで、地から足が離れてしまいそうなほどに引きは強い。
「掛かったな! さぁ、頼むから溶けてくれるなよ……」
独自に改良を重ねた釣り糸が無残に焼き切れはしまいか、
ホクアースは危惧する。
いくら耐熱加工が施されていると言えど、
100万度を超える最外層大気中に長時間あれば、いつ焼失してもおかしくはない。
また、黒点に突き刺さったかぎ針がそこから少しでもずれれば、
我を失った奴が激しく暴れ出す、と予測が付いていた。
「見えない獲物と闘うのは案外手こずるな。
だが俺も、伊達に天体指導係を務めてないぜ。おらよ!」
彼は特訓の成果を見せるように、慣れた手つきで釣り竿を上下左右に振る。
確実に手応えは感じていた。拳の表面に浮き出た血管がいつになく赤い。
だが、太陽はその顔を地平線上にさっぱり現さなかった。
一向に進展しない状況が、刻々と苛立ちを募らせる。
「くそっ、ご機嫌斜めか? こっちには時間制限があるってのによ!」
ホクアースの思いとは裏腹に、精彩を欠いた釣り竿捌きによって、
かぎ針が躊躇なく獲物の内部を抉ってゆく。
肉を切られる鋭い痛みを覚えた太陽は、すぐさま灼熱の牙を剥いた。
殺気と共に燃え盛る紅炎が、釣り糸を伝って彼に襲い掛かる。
最初のコメントを投稿しよう!