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誰のために、何のために、自分が天体指導係としての責務を果たしているのか、
ホクアースはまるで分からなくなってしまった。
天体からも他の人間からも一切の見返りはない。
独りで悩みがちな彼は、すっかり自信を喪失していたのだ。
が、ナナースからは依然として、明るい励ましが届いた。
「この任務で初めて、私に協力を仰いでくれたじゃない。
必然的に2人要る計画なんだろうけど、それでもとっても嬉しかったのよ」
彼女は涙ぐんでいるのか、声が震えている。
「いつも私はあなたに頼ってばかりだから、
ほとんどの任務を自分でこなせるあなたのことは、本当に尊敬してる。
でもね、もっと周りに頼ってもいいと思うの」
「俺が?」
「うん。ずっと山小屋に1人で住んでいるのも、
他人に頼ろうとしないからじゃない?
途中で私に相談してくれれば、
太陽を容疑者扱いすることもなかったかもしれない。
周りを見てみて。手伝ってくれそうな仲間がきっとたくさんいるはずだから」
恐る恐るホクアースは周囲を見渡した。
不安定な彼の視界中では、並みいるホッキョクグマが氷上で遊び、
凍てつく北極海を堪能している。
「おいおい、まさかあいつらに頼むって言うのか?」
彼は呆れていたが、ナナースはあくまで真剣だった。
「熱意があれば、言語が通じるかどうかなんて関係ないの。
視野を広げれば、協力者なんていくらでもいるんだから。
私の南極でも、物凄い数のペンギンが手伝ってくれそうよ」
先ほどまでの真面目な話し合いと、脳内に浮かんだのどかな光景とのギャップに、
ホクアースは図らずも吹き出してしまった。
吹雪の轟音に遮られつつも、次にナナースが聞いた彼の一言は、
どこか光を帯びていた。
「こりゃ、どっちが多く集められるか勝負だな」
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