1.煮豚とケーキで祝う夜

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 年は二十代前半ぐらいだろうか。襟足で揃えた黒髪は清潔感がある。目が大きくて童顔。テーブルに小鉢を置く指が、長くて綺麗だった。  料理の代行サービスって、てっきり、うちの母さん位の女の人が来るんだと思ってた。 「ちょうど、ご用意できましたよ。どうぞ座ってください」  照りよく煮あがった煮豚。  付け合わせに、つやつやのほうれん草のお浸し。  切り干し大根と人参と油揚げの煮つけ。  きゅうりの浅漬け。  炊き立てご飯に、わかめと豆腐の味噌汁。  見た途端に、腹がぐーっと鳴った。 「高校生の男の子の夕食を、って御依頼だったので、やっぱりお肉かなと思って」  炊き立てのご飯を、飯碗にそうっと少しずつよそってくれる。  その仕草が不思議で眺めていると、気づいた柳瀬さんが笑って言った。 「炊きあがったご飯は空気を入れた方が美味しくなるんですよ。だから、ふんわりよそらないと」  そう言って渡されたご飯はつやつやで、米の一粒一粒が輝いている。あまりに美味しそうで、いただきますと叫ぶなり、ご飯に箸をつけようとした。  その時だった。 「一口目は、味噌汁が先!!」  きっぱりした声が飛ぶ。  ⋯⋯怒られた、のか?  呆気(あっけ)にとられた俺に、柳瀬さんは、はっとして固まっている。 「あ、あああ、すみません!」  さーっと顔が青白くなり、ぺこぺこと何度も頭を下げられる。 「ま、まず一口目は汁物で箸を湿らせてからって、普段、弟たちに言ってるもので。つい、癖になってるんです。驚かせてすみません!」  気まずそうにうなだれて、しょんぼりしている。 「え、いや、別に。えっと、食事の基本、ですよね。母親からもよく言われてたんですけど、なかなか直らなくて」  飯椀を置き、木製のお椀を手に取った。味噌の香りがふわりと漂う。一口飲んで、思わず叫んだ。 「⋯⋯うっ⋯⋯ま!」  出し汁は鰹節がきいていて、豆腐はふわふわ、ワカメはしゃっきり。味噌が少し辛めなところもいい。  目が合った柳瀬さんは大きな目をぱちぱちっと瞬いて、満面の笑顔になった。
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