1031人が本棚に入れています
本棚に追加
年は二十代前半ぐらいだろうか。襟足で揃えた黒髪は清潔感がある。目が大きくて童顔。テーブルに小鉢を置く指が、長くて綺麗だった。
料理の代行サービスって、てっきり、うちの母さん位の女の人が来るんだと思ってた。
「ちょうど、ご用意できましたよ。どうぞ座ってください」
照りよく煮あがった煮豚。
付け合わせに、つやつやのほうれん草のお浸し。
切り干し大根と人参と油揚げの煮つけ。
きゅうりの浅漬け。
炊き立てご飯に、わかめと豆腐の味噌汁。
見た途端に、腹がぐーっと鳴った。
「高校生の男の子の夕食を、って御依頼だったので、やっぱりお肉かなと思って」
炊き立てのご飯を、飯碗にそうっと少しずつよそってくれる。
その仕草が不思議で眺めていると、気づいた柳瀬さんが笑って言った。
「炊きあがったご飯は空気を入れた方が美味しくなるんですよ。だから、ふんわりよそらないと」
そう言って渡されたご飯はつやつやで、米の一粒一粒が輝いている。あまりに美味しそうで、いただきますと叫ぶなり、ご飯に箸をつけようとした。
その時だった。
「一口目は、味噌汁が先!!」
きっぱりした声が飛ぶ。
⋯⋯怒られた、のか?
呆気にとられた俺に、柳瀬さんは、はっとして固まっている。
「あ、あああ、すみません!」
さーっと顔が青白くなり、ぺこぺこと何度も頭を下げられる。
「ま、まず一口目は汁物で箸を湿らせてからって、普段、弟たちに言ってるもので。つい、癖になってるんです。驚かせてすみません!」
気まずそうにうなだれて、しょんぼりしている。
「え、いや、別に。えっと、食事の基本、ですよね。母親からもよく言われてたんですけど、なかなか直らなくて」
飯椀を置き、木製のお椀を手に取った。味噌の香りがふわりと漂う。一口飲んで、思わず叫んだ。
「⋯⋯うっ⋯⋯ま!」
出し汁は鰹節がきいていて、豆腐はふわふわ、ワカメはしゃっきり。味噌が少し辛めなところもいい。
目が合った柳瀬さんは大きな目をぱちぱちっと瞬いて、満面の笑顔になった。
最初のコメントを投稿しよう!