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「ど、ど、どういうこと!?」
「⋯⋯恋人に、なった」
俺は、小さな声で、しかしはっきりと花井に告げた。
花井の豪華弁当を平らげ、ごちそうさまと手を合わせた後。
佐藤が隣で、ゴッゴッゴッと勢いよくお茶を飲んでいる。昼食後の賑やかなはずの教室が、しんと静まりかえっていた。
「だから⋯⋯」
「だから、明日からは弁当はいらない、ってことだね」
俯いたまま呟く花井に、俺は頷いた。
「その代わり、明日から1週間。俺に、お前の弁当を作らせてくれ」
佐藤が吹き出した茶が、花井の顔にかかる。ぎゃっ! と、悲鳴が上がった。花井は佐藤を睨みながら、ウェットティッシュで顔を拭う。
「⋯⋯タカ。同情してくれなくてもいいんだよ」
「同情じゃない。これは、感謝だ」
花井は目を瞠り、わかった、と言った。
翌朝、俺は4時に起きた。
部活の朝練前に、二人分の弁当を作らなければならない。花井は俺と違って小食だからな、と大小の弁当箱を用意する。
炊き立てのごはんを、少しずつ器に敷き詰める。塩鮭を焼いてほぐして、別の皿にとる。いんげんは茹でて冷まし、生姜醤油で和えた。
俺は卵焼きが好きだ。母親直伝の卵焼きは、砂糖多めで塩と酒を少々。
鉄の卵焼き器を熱くしたものに、油を馴染ませる。卵液を少しずつ注ぎ、くるくると巻いて端に寄せる。さらに油を少々敷いて卵液を入れ、端に寄せた卵焼きを芯にしては巻いていく。最後にぽんと皿にあければ、きれいな黄色に湯気が上がった。
「ほんとに、作ってくれたんだ⋯⋯」
昼に、ビニール袋を片手にやってきた花井が、目を丸くした。袋からはコーヒー牛乳とサンドイッチが覗いている。
「何だ、信じてなかったのか? お前の弁当みたいに、豪華なのは無理だけどな」
ほい、と包みを渡せば、花井は「ありがと」と、小さく口にした。
大きさが違うだけで、同じ中身の鮭弁当が並んでいる。ご飯の上に焼いてほぐした鮭を乗せ、彩りには黒ごまを散らした。後は、卵焼きといんげんとプチトマトだ。赤青黄色の三色が揃えば、なんとかなる。常々、母さんが言っていた。
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