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やや硬めに炊きあがったご飯に、こってりした甘辛の煮豚。夢中になってお代わりし、俺は味噌汁を3杯にご飯を4杯食べた。満腹になって、ため息をふーとついたら、柳瀬さんは穏やかに笑っている。
「お母様から、息子さんは外食や市販の総菜が苦手だと伺ったんです。和食が好きだとのお話でしたが、リクエストがあったら仰ってくださいね」
うちの母さんは、掃除洗濯はいいかげんでも、食事はしっかり手作り派だった。
仕事が忙しくなってから夕飯を一緒に食べられないことが多くなり、先週から出張で3カ月ほどシンガポールに行っている。食事は自分で適当に作って食べるよと言ったのに、全く信用されてなかったんだな。
テーブルの上を片付けた後、湯呑みが置かれた。
「お茶、どうぞ」
「あ、す、すいません」
「お口に合いましたか? 高校生はよく食べるから、多めにご飯炊いておいてよかった」
「すごく。すごく美味しかった! こんなにうまい夕飯、久しぶりです」
「良かった。まだお腹、あいてますか? 何としても今日からお願いしたいってお母様に言われていたのは、このためだったんですけど」
柳瀬さんが冷蔵庫から、白い箱を取り出した。箱の中から出されたのは、真っ赤な苺が乗ったデコレーションケーキだった。
「今日、お誕生日ですよね。本当は、ぼくらの仕事は料理を作って確認していただいたら終わりなんです。でも、今日だけは一緒に祝ってやってほしいって言われて。ご一緒しても、よろしいですか?」
⋯⋯今日初めて会ったばかりのやつと一緒にバースデーケーキ?
いつもなら、真っ先に文句を言うところだけど。俺は⋯⋯、まんまと頷いてしまった。
「蝋燭、何本たてますか?」
子どもみたいにわくわくした顔で聞かれて、はぁ? いらねー! とは、とても言えなかった。
「な、7本で⋯⋯」
「はい! 17歳ですもんね!!」
赤や青の短い蝋燭が白いクリームの上に立てられ、火をつけると、柳瀬さんは台所の電気を消した。
母親も毎年全く同じことをしていたので、何だかくすぐったい気持ちになる。
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