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「すっげ! タカ、はっやー!!」
どーんとでかいシャチを砂浜に転がすと、蓮が大喜びで一路たちに見せに行った。
一路と耀二は、シートを敷きパラソルを立てている。蓮のお昼寝用にビーチテントまで用意して、手際の良さに感心する。
シャチを見た一路が、ぱちぱちと拍手をした。
俺に向かって、にこにこと手を振る姿はめちゃくちゃ可愛い。ああ、幸せだ。
「タカー! 次これー!」
「まかせろ! いくらでも持ってこい!!」
青の巨大なドーナツ浮き輪を膨らませ終わった時。
「すみませーん。これも、膨らませてもらってもいいですかぁ?」
ビキニ姿の女子二人組に声をかけられた。
両手を合わせるようにして頼み込んできた二人を皮切りに、次々に人がやってくる。
つい引き受けているうちに、結構な数をこなした。
最後にやってきたのは、小柄で可愛い顔立ちの男子だった。
「⋯⋯あの、いいですか? 空気入れ、忘れちゃって」
手には、ぐにゃりと空気の抜けた浮き輪を持っている。
「ああ、いいよ」
これが最後の一人だ。俺がよし!と気合を入れると、にこりと微笑まれた。
浮き輪を受け取って空気を入れはじめる。様子を見たいのか、ぐいぐいと近づいてくる。
⋯⋯あんまり近くに寄られると、空気が入れづらいんだよな。
「はい、これで大丈夫だと思う」
浮き輪を渡すと彼は満面の笑みになった。
「わぁ! ありがとうございます!! あの、よかったら御礼に何か奢ります⋯⋯」
「いや、そんなたいしたことしてないから」
「えー、でも助かりましたから」
「⋯⋯それくらいで、礼なんていらねえよ!!」
「は!?」
シャチを抱えて暇そうに眺めていた蓮が、割り込んできた。シャチの尾を振り回し、俺の手をぐいぐい引いていく。ちらっと振り返ると、呆然と砂浜に立っている子が見えた。
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