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蓮はパラソルの下に俺を連れ込んで、じろりと睨んだ。
「まあったく、タカってバカなの? あれはナンパだって!」
「え、だってあれ」
男子だけど、と言いそうになると蓮が呆れたように言った。
「最初のねーちゃんたちもだけど、さっきのやつもわざと浮き輪のビニールから空気抜いてたからな!」
「⋯⋯そう、なのか?」
「そうだよ! やたら近づいてきたじゃん!! タカはイケメンだし、いい奴だから狙われてんだよ!」
⋯⋯小3とは思えぬ観察力の高さに感動する。
「そっか。助けてくれてありがとな」
礼を言うと、仕方ねえなあと言われてしまった。
隣から、ひょいと手が伸びてきて、冷たい缶コーラが渡される。イケメンがクーラーボックスから取ってくれた。
「お疲れさん」
「あ、どうも」
「耀にい、俺のジュースも!!」
「ああ、お前もお疲れさん」
蓮は凍らせてきたというオレンジジュースをもらって上機嫌だ。思い切り振って、まだ凍ってるううう!と叫び、砂浜に紙パックをぶすりと突き立てる。確かにあれなら、すぐに溶けるだろう。
よく冷えたコーラを開ければ、ぷしゅっと音がする。ふわりと湧き上がる泡ごと飲み込んで、大きく喉を鳴らした。
「⋯⋯うっま!」
目の前には真っ白な入道雲。
汗をかいた身体に冷たい炭酸がすっと染み渡る感じがして、ふーと息をつく。
「あれ、一路は?」
「さっき、海の家の方に行ったけど」
俺は立ち上がって、一路を探しに出かけた。
海の家が数軒並んで立っている辺りに、一路の姿はなかった。辺りを見渡すと、少し離れて黒い点のような姿が見える。
どんどん歩いていくと、周りに人は誰もいなくなって、海と空と砂浜しかない。ぽつりと海際に立って、寄せる波に一人で足をつけている姿が見えた。
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