1030人が本棚に入れています
本棚に追加
「二人とも、おっそーい。もうお昼にしようよー!」
蓮たちの元へ戻ると、シャチでひと泳ぎしてきたらしくて、二人はバスタオルで体を拭いているところだった。
「ごめん、ごめん。今、用意するね」
一路が大きなランチボックスを開ける。
「やっほおおおお!!!」
蓮の歓声が上がる。俺も唾を飲みこんだ。
次々と取り出される料理は、どれも食欲をそそられるものばかりだ。
鶏むね肉の一口ガーリック焼き。
豚肉の味噌漬けハム。
半熟卵の味玉。
赤ピーマンと玉ねぎのカレーマリネ。
甘い卵焼きに茹で枝豆。
トウモロコシごはんの三角おにぎり。
梅しそじゃこの俵型おにぎり。
皆で手を合わせる。
「いっただきまーす!!」
これを作るのに、一路は何時に起きたんだろう。ぎゅっと胸が痛むような切ない気持ちになる。今日みたいな日は、海の家で食べてもいい気がするんだけどな。
「あれー? 卵が二種類ある。今日の卵焼き、甘―い! いつものじゃないね、一にい」
口いっぱいに卵焼きを頬張った蓮が言う。
綺麗に巻かれた卵焼きをぱくりと食べて、俺は思わず笑顔になった。
『甘い卵焼きが好きなんだ』
前に言ったこと⋯⋯覚えていてくれたんだ。目が合った一路が真っ赤になっている。
「すっげー、美味い!」
「だろ! 一にいの作るごはんは最高なんだ!!」
「そうだな。蓮の言う通り、最高だよな」
蓮と俺は顔を見合わせて笑った。あまり表情を出さない耀二も笑っているし、一路は赤い顔のまま、うろうろと視線を泳がせている。
食事が終わった後、蓮と耀二は昼寝をすると言う。
俺は一路と二人で海に向かった。
今日は風もなく穏やかな日だけれど、午後の波はすぐに満ちてくる。
一路に手を伸ばすと、びくりと肩が震えた。
「一路、手、繋ぎたい」
「うん」
お互いに伸ばした手を絡めて、黙って砂浜を歩いた。サンダルを途中で脱いで、人が少なくなった海に入る。
「うわ、結構冷たい」
「午前中より波が強いね」
遠浅の海は、なかなか深くならないから、まるで造波プールの中にいるみたいだ。
二人で何度も波を飛び越える。そのうち、ざばっと潮水を浴びて、お互いにずぶ濡れになった。
最初のコメントを投稿しよう!