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「⋯⋯タカもすっかり、ただの恋する男になっちゃったんだね」
微妙に余計なことを言われている気がするが、恋する男には違いない。
花井は五目炊き込みご飯に生麩入りの煮しめという手の込んだ弁当を広げている。パンを齧ろうとした佐藤の口にいきなり卵を突っ込んで、つまらなさそうに頬を膨らませた。
「俺はいつだって、一途な男なんだ」
真剣に呟けば、佐藤がうずら卵にむせた。気の毒に、口を押さえて涙目になっている。
花井が慣れた仕草で、ウェットティッシュをひらりと摘まんで差し出す。佐藤は気まずげに「サンキュウ⋯⋯」と呟いた。
今週は、中間試験前でどの部活も一斉に休みだ。一路の仕事日でもないので、夕飯はストックと冷凍品で何とかしようと考えていた時だった。
花井から買い物に付き合ってほしいとスマホにメッセージが入った。
高校から近いショッピングモールには、花井の愛する食材店が入っている。菓子の材料から和食用の豆や乾物類、海外の食材まで幅広いラインナップが売りだ。
たまにはいいかと了解のスタンプを送る。ハートのスタンプが速攻で返ってきた。
放課後、花井と連れ立ってショッピングモールに向かう。
店に着くと、メモを片手に花井はせっせと目当てのものをカゴに詰め込んだ。レジで渡された大小の袋は食材でいっぱいだ。これを全部料理するのかと感心する。
「うわ⋯⋯。思ったよりたくさんになっちゃった」
「片方、持つわ」
「え、いいよ。ぼくのだし」
「俺の方が力、強いし。お前はそっち」
「ん⋯⋯、ん」
二人とも片手には学校鞄を持っている。小柄な花井が小さめの、俺は大きめの袋を持って歩けば、ちょうどいい。
「タカ、ありがと。⋯⋯えっと、何か食べよ。付き合ってもらったし、奢るからさ」
「別に気にしなくていいって。フードコート行こうぜ。あそこなら、好きなもの選べるだろ。花井は何食べたい?」
「えっと⋯⋯」
「ん?」
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