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あわてて火を吹き消そうとした途端。
「あ! ちゃんと願い事をしながら、蝋燭の火を吹き消して!!」
俺が目を瞠ると、柳瀬さんも大きく目を見開いていた。
「あああ!! また、また余計なことを。本当に⋯⋯すみません」
泣きそうな人を前にして悪いとは思ったが、思いきり噴き出してしまった。
恐縮する柳瀬さんに、折角だから一緒に食べようと誘うと、迷った末に承知してくれた。
甘党だと言う柳瀬さんは、とても美味しそうにケーキを食べる。生クリームも苺も、いつもよりずっと甘く感じるのが不思議だ。
ケーキ皿を片付けながら、柳瀬さんが言った。
「朝はご飯派ですよね。作り置きになってしまいますが、明日のお味噌汁もご用意しました」
俺の朝飯は、必ずご飯だ。息を吸っても腹が減るのに、パンやシリアルではどうにもならない。味噌汁があれば最高だけど、寝ている時間の方が大事だから専らインスタントで済ませている。
「お母様から、特に汁物がお好きだと伺いましたので」
明日も朝からあの味噌汁が飲めるのか。テンションが、一気に上がった。
「タカ、機嫌いいじゃん! 何かあった?」
へ?
「鼻歌でてるぞ。気づいてないの?」
朝のホームルーム後に、隣の席の佐藤がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「めしが⋯⋯」
「は?」
「飯がうまいんだ⋯⋯」
「おまえ、今、一人暮らしじゃなかったっけ?」
「そう。だから、飯がうまいんだよ」
さっぱりわからん、と首をひねられた。
「ちょっと、タカ! どういうことなのさ?」
昼休み、弁当を広げながら花井が不機嫌に呟く。
女子なら誰もがうらやみそうな、長い睫毛に大きな瞳。黙っていれば美少女のような顔が、眉間に皺を寄せている。その視線は俺が作った弁当に注がれていた。
俺と佐藤と花井は、同じ中学から高校に進んだ。
佐藤とは同じクラスだが、花井は隣のクラスだ。なのに、毎日昼休みには、うちのクラスまで弁当持参でやって来る。
「タカのお弁当ぐらい、毎日ぼくが作ってあげるのに!」
「いらね⋯⋯いや、いいって。おまえ、朝からいくつも弁当作るの大変じゃん」
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