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花井は何となく言いにくそうな顔をしている。ショッピングモールの一階にあるフードコートには、ラーメン屋やファーストフード、丼物と手軽に食べられる店が揃っている。
甘い香りがして、中高生らしい女子たちがクレープ屋の前に並んでいた。花井はクレープ屋を眺めて、ふっと目を逸らした。
「クレープ、うまそう! でも、今日はこれじゃ足りないな⋯⋯」
「タカ、クレープ好き?」
「好きだよ。ただ、一個じゃ足りないから、結構高くつくんだよな。花井は?」
「え⋯⋯、す、好きだよ」
「俺はチョコアーモンドが好き。うーん、でも、今日はやっぱりラーメンかな」
ちょうど前に並んでいた子たちが買い終わって、店員から「ご注文どうぞ!」と元気よく声がかかる。
花井が慌てて、チョコアーモンドを頼むのが聞こえた。いいな、うまそう。
フードコートの中央に並ぶテーブル席に、俺たちは向き合って座った。俺は大盛ラーメン、花井は焼き立てのクレープとコーヒーをトレイに乗せている。
「どうした? あったかいうちに食おうぜ」
花井がなぜか神妙な顔をしている。行儀よく両手でクレープを持って、ぽつりと漏らす。
「⋯⋯前にさ。クラスの子と、ここに来たことがあって。その時、クレープ食べたいって言ったら、女子だなって言われたんだ。それ以来、何となく人と一緒の時は頼みづらくなっちゃって」
深い意味はないかもしれないんだけどさ、と呟く。
⋯⋯何となく元気が無いのはそのせいだったのか。
俺は花井の腕を掴んで、ぐっと自分の方に引いた。
「一口くれ、お先に」
花井が目を丸くした隙に、ばくりとクレープに齧りつく。
「うまい!」
チョコの甘味とスライスアーモンドの香ばしさがよく合う。これを食べたら皆、幸せになると思う。
「男でも女でも、誰が食べても、うまいものは、うまいんだよ」
もう一口もらおうとしたら、花井が慌てて、俺の手を振り払った。
「⋯⋯ぼ、ぼくのクレープっ!」
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