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「あ。はじめまして⋯⋯」
「タカくん、どうして、ここに?」
「え⋯⋯いや、買い物に⋯⋯。一路こそ何で⋯⋯」
「ちょっと皓太さんの買い物に付き合ってたんだ」
にこっと笑う一路は世界一可愛いけれど、同時に俺は少しも面白くなかった。
初めて会った『こうたさん』が爽やかなイケメンなことも、一路がそいつを名前で呼んでいることも。二人が楽し気に微笑みあっている様子も、全部むかつく。
一路は今日は休みなんじゃないのか? 何で休みの日にまで、上司の買い物に付き合うんだよ。
言葉に出来ない感情が、胸の奥で渦を巻く。
「タカー?」
振り返ると、花井がこちらを見ている。
「あ、⋯⋯すみません。友達が待ってるんで」
「ああ、ごめんね。引き留めてしまって、申し訳ない」
「いえ、じゃ、失礼します」
俺は切れ長な瞳と目を合わせた後、ぺこりと頭を下げて、その場を後にした。
「びっくりしたなあ」
「えっ?」
「初対面の高校生に睨まれたのなんて、初めてだ。⋯⋯柳瀬のせいだね」
爽やかなイケメンが楽しそうに笑ったことも、一路がどんな顔をしたのかも、俺は知らない。
次の日の夕方。
「こんばんは」
「⋯⋯こんばんは」
部屋に入ってきた一路を前に、俺は小さく言葉を返すことしか出来なかった。
いつもなら、部屋に入ってきた一路にすぐに抱きついて嫌がられるのに、今日は何も行動に移れない。
一路がびっくりした目で俺を見る。ぎくしゃくしたままに時間が過ぎていく。こんなのは初めてだ。仕方なくリビングのソファーに座って、黙って食事ができるのを待っていた。
一路が、できました、と声をかけてきて、慌てて台所に向かう。
食卓に着こうとすると、一路の顔色が悪いのが目に入った。思わず声をかけようとした時だった。
「タカくん」
はっとして顔を上げると、一路がじっと俺を見た。大きな瞳が潤んでいる。
「すみません。最初に謝ります。今日の食事は⋯⋯集中して作れませんでした。ぼくは、プロとして失格だと思います」
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