番外編 君に呼ばれて ※

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「えっ」  一路は、俺の前で頭を下げた。そのまま、顔を上げようとしない。  俺は急いで一路の前に駆け寄った。細い体に手を伸ばすと、一路の肩がわずかに震える。床に、ぽとりと雫が落ちた。  ⋯⋯泣いてる? 「いちろ! どうしたの?」 「⋯⋯仕事なのに、公私混同しすぎるから。だから、ダメなのに」 「ダメって? 俺が、今日ずっと、変な態度取ったから?」  俺はぎゅっと、一路を抱きしめた。目の端に溢れる涙を吸い取るように口を寄せた。  俺の態度が悪かったから、一路は料理に集中できなかったんだ。それで泣かせてるなんて、馬鹿なのは俺じゃないか。  一路が俺の胸に頬を擦りつけた。声が切れ切れになる。 「きの⋯⋯、蓮たちへ、お土産⋯⋯買お⋯⋯とフードコート通って⋯⋯。タカくんが、クレープ食べてるの、見た」 「クレープ?」 「⋯⋯手、引いて、クレープ⋯⋯」 「手? あ、花井のクレープ?」  一路が言ってるのは、俺が齧ったチョコアーモンドのことだろうか?  一路がびくりと震えた。はない、と小さく呟くのが聞こえる。一路の髪を撫でれば、さらりと手に馴染んだ。 「花井は中学からの友達で、隣のクラスなんだ」  一路は、腕の中で深く息を吸った。背中を撫でていると、だんだん落ち着いてくるのがわかる。 「⋯⋯ずっと、それが、頭を離れなくて⋯⋯。昨日は、目も合わせないで帰っちゃったし」 「だって、それは。一路が、あいつといたから」 「あいつ?」  一路が腕の中から目を上げた。俺は一路を腕の中に抱きしめたままで言った。 「あの、上司ってやつだよ。一路は何であいつを名前で呼ぶの?」 「えっ? 皓太さんのこと?」 「そう、そいつ」  胸の奥にじりっと嫌な気持ちが湧く。 「皓太さんは、大学の先輩なんだ。うちの両親が車の事故で死んで以来、ずっと相談に乗ってもらってた。『心』での仕事を紹介してくれたのも皓太さんなんだ。『心』は、皓太さんのお父さんが社長なんだよ」  俺は驚いて、何も言えなかった。一路は淡々と話し続ける。
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