1.煮豚とケーキで祝う夜

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 花井の弁当は、毎日、やつの手作りだ。朝から花型の人参だの、飾りこんにゃくだの、手が込んでいる。趣味は料理と言い放つだけあって部活は家政部だし、味は折り紙付きだ。 「そんなことないって! タカの好きなものなら、いまさら聞かなくても全部わかってるし!!」  ⋯⋯それが怖いんだっての。  佐藤が黙って飯をかきこんでいる。よくわかるぞ、その気持ち。  柳瀬さんは、あれから週3でうちに来る。  出来立ての夕飯提供と、来ない日や朝食分の料理を作り置きしてくれる。  俺は朝食以外の食品を冷凍して、適当に弁当に流用することにした。それを聞くと佐藤は興味津々、花井は益々機嫌が悪くなった。 「へー、これがその一品だってわけ? ⋯⋯うわ、だし巻き玉子、うっま!」  佐藤が俺の弁当箱から大事な卵焼きを一つ摘まむと、感嘆の声をあげる。ぐぬぬと花井の不穏な呻き声が聞こえたが、無視した。 「あ、今日は茶碗蒸しだ!」 「はい、春とはいえ少し冷えますから温かいものにしました」  柳瀬さんが、にこにこと微笑む。  青々とした豆ごはんに湯気の立つ茶碗蒸し。  味噌汁は絹さやと新玉ねぎと花麩。白みそ仕立てで、とろりと甘い。  メインは肉じゃがで、小鉢には菜の花のお浸し。 「この肉じゃが、鶏肉なんですね」 「豆ごはんがあっさりしてるから、味を消さないようにと思って鶏肉にしたんです。やっぱりお肉は牛の方がよかったですか?」  心配そうに聞かれたので、すぐに首を横に振る。  お世辞じゃない。ジャガイモは小粒の新じゃがで瑞々しい。鶏肉の旨味がよくしみて、こっくりとした味わいになっている。 「ううん! これ、すごくうま! いや、美味しい⋯⋯です」  柳瀬さんはほっとしたように息をついて、くすくす笑った。 「前にも言いましたけど、話す時は敬語じゃなくていいのに」 「でも、柳瀬さんだって敬語でしょ。俺の方が年下なのに、ため口なのは悪い気がして」 「ぼくは仕事ですからね。佐原さんは大事なお客様だから、気にしないで」  仕事⋯⋯。お客様。その言葉に、胸の奥がつきんと痛む。そうだよな、そりゃあそうだ。当たり前のことを言われただけなのに。  好物の豆ごはんが、何だか喉に詰まる気がした。
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