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「戻りました」
「遅い!」
「まだ30分も経ってない」
颯の言い分を聞こえぬふりで、千晃は捲し立てた。
「共同研究室に置いてある資料を段ボールに詰めて、今日中に発送してくれ」
発送先と資料数を走り書きしたメモに目を落とし、颯は不服そうにぼやく。
「スマホにかけてくれたら良かったのに」
「忘れて行っただろうが」
「え、うそ」
ぱっと顔を上げてジーパンのポケットを叩く。その様子を視界の端にしながら、千晃は背後を示した。彼が置き去りにされたスマホを取り上げるのを見て、千晃は何でもないように報告する。
「電話がかかってきてたぞ」
「ほんとだ。あれでも……」
不在着信になっていないことに気が付いたのだろう。
「鳴り続けてうるさかったからな――」
「切ったんですかっ?」
食い気味に聞き返す男をぎろりと睨みつける。
「人聞きの悪いことをいうな。代理で出てやっただけだ」
「なんだ、びっくりした」
彼女の電話を無言で切るのがそんなに問題なのか?
いやそれ以前に、いくら千晃でも人の電話を無言で切ることはない――多分。するとしても余程機嫌が悪いとかに違いない。
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