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久しぶりに早く上がれた千晃(ちあき)は、助手席へ恋人になったばかりの男を乗せて自宅へと走らせる。視線の先ではワイパーが忙しなく働き、窓を擦る音と視界が白くなるほどの雨音だけが車内を支配する。 ほどなくして少し離れたパーキングに停車した。千晃の家は学生時代から借りている二階建てアパートだ。学生でも払える安い家賃で一部屋が広い分、築年数が古く駐車場もない。 フロントをとめどなく打ちつける雨粒を見上げながら、千晃はぼそりと呟いた。 「出るときは降ってなかったくせに」 二人が車に乗るのを待っていたかのように緩やかに降り始めた雨は、次第に強さを増していった。今や土砂降りとなって、親の仇のごとく打ち付ける夕立を千晃は忌々しげに睨みつける。 「ちゃんと天気予報みてください。夕方から降るって言ってましたよ」 得意げに傘を見せつけてくる(はやて)を一瞥して千晃は舌打ちする。 「こんなゲリラ豪雨になるとは思わないだろうが」 「ここ最近はずっとこんな感じでしょう」 颯の正論を背に聞きながら、千晃は覚悟を決めたようにドアに手をかける。 「仕方ないなあ、どうしてもっていうなら一緒に入れてあげますよ?」 「いやいい。すぐそこだし」 颯のセリフを途中から遮って答えると、千晃は大粒の雨の中を走り出した。
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