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だが彼女はすぐには踵を返そうとしない。むしろ追いかけるべきか迷っているようにそわそわしていた。
「彼に研究のことで相談しているとか?」
何気なく尋ねた瞬間、後悔した。
彼女は目を見開いて千晃を見つめると、後ろ手に扉を閉める。自分は中に入ったまま。
もしやこっちに恋愛相談してくるつもりじゃないだろうな。彼女は足を踏み出しながら室内を見回す。幸か不幸か、今この研究室には千晃と彼女の二人きりだ。
――まずい、下手に話題を振るんじゃなかった。
そう心で毒づいていると、案の定、彼女は声を潜めた。
「実はそれは建前で、本当は恋人のことで相談したかったんですけど」
「……恋人?」
真剣な眼差しの彼女へ、千晃は数回瞬いた。
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