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「なんでお前まで濡れてんだ」
「傘使うの面倒だったので」
口元で囁き、濡れたシャツ越しに胸元をなぞられると寒気とは別の震えが抜ける。
「先にシャワーを浴びましょう」
そのまま指を滑らせて、シャツのボタンを外す手を見下ろしながら問いかけた。
「……それは大いに賛成するが、どうしてここで脱がそうとする?」
「あわよくばヤれるかなあと思って」
「正直だな」
「ご褒美に襲っていいですか」
言いながらキスを迫られる。
「なんでだよ」
冷たく言い放ちするりと腕から抜け出すと、千晃は玄関先で立ち尽くす男を置いて一人シャワールームへと向かった。
数歩遅れて颯が追ってくる。脱衣所でくるりと振り返ると、彼は律儀に立ち止まってみせたものの、その顔は明らかに入れてくれとせがんでいた。
千晃は少し眉根を寄せ、扉を閉める前に背を向けて肩越しに視線をくれる。
「……まあ一緒にシャワー浴びるくらいならいいぞ」
それを聞いた瞬間、飼い主に置き去りにされた子犬のように悄然としていた男は、ぱあっと顔を輝かせた。まるで全力で振る尻尾が見えてきそうな勢いだ。
「風邪ひかれても面倒だからな」
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