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ポツン、と滴が鼻に当たった。
反射的に空を仰ぐと青空が一気にくすんでいて、ザーッとバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。
「うひゃあ」
私は慌てて鞄から折り畳み傘を探した。
だが……
「あ、そうだ……玄関に置いてきちゃった」
ついてない、と額に手を当てた。が、困っていても体は濡れる。
一つくしゃみをして、歩道橋の下へと駆け込んだ。
ここの大通りは車通りが非常に多く、数年前歩道橋が建てられた。その前までは事故が多発していたのだ。
歩道橋の下には先客がいた。黒のトレーナーにジーンズと言った装いで、十七歳ほどだろうか、一人佇んでいる。空は暗く、歩道橋の下ということもあり影が多くて見にくいが、顔立ちが整っているように見えた。
「お、お邪魔します……」
彼の場所ではないのだが……言ってしまうのは日本人特有のものだろうか。
遠慮がちにそっと佇んで空を仰いだ。相変わらず暗い空からは大きな滴が降り注ぎ、乾いたアスファルトをあっという間に潤している。
「あ、どーぞ」
彼はごく自然に微笑むと場所を少し空けてくれた。私は肩を竦めながら半歩彼に近づく。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
雨が降りしきり狭い歩道橋の下、イケメンの男の子が近距離におり、じわじわと緊張してきた。
私は緊張が苦手だ。ベラベラと勝手に口が動く。その癖が今日も発揮された。
「夕立困りましたね。私、今日に限って傘忘れてきちゃって」
「それは災難ですね。でも、俺は夕立嫌いじゃないですよ」
彼は突然話しかけてきた私にさらっと応じた。
見知らぬ人に急に声をかけられているのに返事を返してくるのが嬉しくて、口元をひっそりと綻ばせた。
「そうなんですか?」
「えぇ、穢れたものが一気に洗い流される感じで」
詩的だなぁ、と思った。彼くらいの年齢だとそう言ったことを考えるのだろう。私もそうだったな。今思えば恥ずかしくて堪らない。
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