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雨、上がる
俺は何か言わないといけないと思い、どうにか口を開く。
「犯人は、見付かっていないんですか」
青年は悔しそうな顔で頷き、マスターは泣きそうな顔で言った。
「はい。突き飛ばされた犯人のシャツが破れた時に、肩に稲妻みたいな形の傷跡があるのははっきりと見えたんですけど、顔とかが」
「どこにいるのか知らんが、必ず見付けてやる」
青年がそう獰猛な顔で言うのに、俺は背中がゾクリとした。
カタカタと音がする。
俺の足が震えて、テーブルに当たっているせいだ。
「あ、気が付かなくてすみません。寒いですか。タオルを」
マスターがそう言って立ち上がり、カウンターのタオルを取る。
「ああ、雨でびっしょりだ」
青年がそう言って、タオルを取り、近付いて来る。
「いや、大丈夫です。お気遣いなく」
俺は慌てて立ち上がり、後ずさった。
「かぜをひきますよ」
マスターが気がかりそうに言う。
その時運悪く、クーラーの風が直撃し、俺はくしゃみを連発してしまった。
(くそ!何やってんだ、俺は!)
そう自分をののしったが、もう遅い。
「遠慮しないでいいですって」
青年が笑って、タオルを手に近付く。
(それ以上寄るな!近付くな!)
青年の顔が、怪訝そうになる。そして次には、目を鋭く眇め、やがて、驚いたように見開かれた。
ああ。見えているんだろうな。雨に濡れてぴったりと貼り付いたワイシャツの下、肩にある、事故の時にできたギザギザの稲妻のような形の傷跡が──。
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