雨が連れて来た記憶

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雨が連れて来た記憶

「当時ぼくは10歳でした」  マスターが喋り始め、青年は気遣うようにしながらも、黙って座っていた。  ぼくは両親と住んでおり、家も高級住宅街の中にあり、いわゆる資産家だった。  その日は台風が接近していたせいで、朝から暴風雨となっており、家族3人、ひっそりと家の中でトランプをしたりして過ごし、夕食の後は、雨と風の音にドキドキしながらベッドに入った。  時間はよくわからないが、夜中で、怖いくらいの音を立てて雨が降っていた。その中で、いきなり母親が部屋に飛び込んで来て、ぼくは目を覚ました。  何事かと訊く前に、後から追いかけるように飛び込んで来た覆面の男がナイフを持っていたのが雷の稲光に浮き上がり、小学生のぼくですら、とんでもないことが起こっているとわかった。  脅されて、ぼくと母がリビングへ行くと、父はリビングで額から血を流して座っていた。  親子3人でかたまって座りながらぼくは犯人達を見た。  犯人は6人。おそらく全員男で、マスクと目深にかぶった帽子とで顔は良く見えない。  その中でもリーダーらしい男が、ナイフでまずぼくの足を刺して、父に金庫を開けろと命令した。  父は仕方なくそれに従ったが、リーダーは次に、母に目を付けた。  襲おうとしたのだ。  母は抵抗し、父は止めようとする。  悲鳴と怒号が響き渡るが、雨の音と雷の音の方が大きくて、ややもすると声をかき消した。 「やめろ!」  犯人の1人がリーダーを止めようとしたが、リーダーは、 「邪魔をするな!」 とその犯人を振り払い、突き飛ばした。  突き飛ばされた犯人はソファに倒れ込み、弾みで帽子が取れた。  リーダーは構わず父を殴り、父は棒立ちになってからその場に倒れた。 「やめろ!」  もう1度犯人が止めに入ると、リーダーはその犯人と取っ組み合いになったが、弾みで止めに入った方の犯人は着ていたシャツが破れ、鼻血を出しながらダイニングに転がった。 「ああ。顔を見られたし、殺すしかないな」  リーダーがそう言って、無造作に母を刺した。  それをぼくは、唖然として見ているしかなかった。 「ぼくもその後刺されたんですけど、急所を外していましてね。助かったんです。足はその時以来、この通り、引きずる事になったんですけど」  マスターはそう静かに言った。  俺は予想外のマスターの話に動転し、震える手でコーヒーを一口飲んだが、まるで味はわからなかった。 「俺は従兄で、やっぱりその事件がショックでね。そういう事件が憎くて、それに犯人も捕まえたくて、警察官になったんですよ」  俺は、はにかむように笑う青年と寂し気に笑うマスターを見ながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
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