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episode~誘拐事件
「真衣、大丈夫?」
阿久津君は三角に支えられた私の顔を心配そうに覗き込む。
私が視線を合わせると、少し安心したのか、三角から奪うように私を胸の内に抱きしめてくる。
あまりにも強く抱きしめられて、息が苦しくて、少しだけ顔の向きを変えれば、限られた視界に床に転がるチンピラたちの伸された姿が見えた。
三角と阿久津君のほぼ一方的な攻撃に、さっきまで私を拘束していたチンピラたちは身動きひとつも出来そうにないらしい。
「阿久津、真衣をそろそろ放してやれ。そのままだと、真衣、圧死するぞ」
聞こえているのか、聞こえていないのか、阿久津君は微動だにしない。
しびれをきらしたのか、三角が阿久津君の肩をとった。阿久津君の体が少しだけ揺れたような気がしたけど、彼は、三角の腕を振り払う。
「クソ、なんで俺より三角が先に真衣を抱きしめる必要があった?」
「俺がじゃなくて、真衣が抱き縋ってきたの」
三角が得意げに余計なことを言うから、ちょっとだけ緩んだ拘束がまた強くなったじゃないか。だって、最初に私の所に来てくれたのが三角だったんだもん・・・そんなこと言い訳にもならないけど。
本気で私、こんなに全力で抱きしめられ続けたら、このまま死ぬかも・・・・
「凜杏・・・」
私がやっとのことで阿久津君の下の名前を呼んだ。
阿久津君は強く抱きしめていた腕の拘束を少しだけ緩めて、再び私の顔を覗き込むと、優しくオデコにキスをしてきた。
「大丈夫? 真衣、もう大丈夫だからね」
「うん、凜杏、ありがとう、助けに来てくれて・・」
そして少し背伸びをして、阿久津君の耳元に「大好き」と囁いた。
ちょっとだけ驚いたように、でもすぐ微笑んでくれた阿久津君はそれに応えるように、今度は唇にキスをしてくれる。
「・・・・見せつけんなよ」
そう言いながら、私たちの様子に背を向ける三角にも本当、感謝しかないんだけどね。
三角には後で、ちゃんとお礼を言わなきゃだ・・・・そう思いながらも、キスを止めてくれない阿久津君に私は身を任せていた。
もう気力も体力も限界で、自分一人で立っていることさえ、あやしかったから。
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