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「阿久津が怒っているのは、真衣が別れたくもないのに別れたいとか下手な演技で言ったからでしょ?」
直球きた。やっぱり阿久津君から真尋には報告済ってことだよね。
「下手な演技ってなによ?」
「真衣は演技も嘘もかなりヘタレってこと。真衣が阿久津のことを好きなことは、周知のことだし。今もそれは変わってないでしょ?」
「ヘタレって、あの写真集は頑張ったじゃん。」
「まぁ、それは認めるけど、阿久津とのことに関しては頑張るポイントがズレてたと思う。別れ話を頑張ってどうするの?確かに就職は大事だと思うけど、その前にきちんと片づけなきゃいけないことがあるよね?なんで核心の話を阿久津本人とちゃんとしない?勝手に先走って、いきなり別れ話なんかする真衣の方がこの状況では悪いと思わない?」
そう言い切った真尋は盛大に溜息をついてみせる。これって演技?本音?
真尋の指摘はいつだって正しいし。だって、私よりずっと頭いいし。
相談すれば、きっともっといい解決策を見つけてくれただろうけど・・・・
そんなことしたら、真尋と阿久津君の友情が微妙なことになったりしないのかなって。
私だって、私なりに頑張ってみたんだって・・・・
それでいろいろ考えて、考えて、出した結果だったんだよ。
だから私は阿久津君にちゃんとお別れをしようと決めた。
ちゃんと伝えたもん。
あの日、久しぶりに会った阿久津君は少し痩せたかなって思ったけど、怯むわけにはいかなくて、一方的に告げてしまった。
「これからは仕事をちゃんと頑張りたいと思っているの。私、真尋みたいに、あまり器用じゃないから、同時進行でいろんなこと出来ないから。まずは恋愛とかより、仕事を優先してって思ってる。それに阿久津君にも阿久津君のすべきことがあるんだよね。お家継いで、相応しい人と結婚して・・・・・・だからね、私から言うよ、別れよう。今までありがとう」
最後は、ちゃんと目を見て、きちんと話しはしたはず。
少し疲れた感じもあって・・・いつもとちょっと雰囲気の違う阿久津君に居心地の悪さは募るばかりだったけど。でも最後くらい笑っていたかった。
「言ってる意味が分からない。真衣ちゃん、ずっと会えなくてゴメン。いろいろ行き違いがあるような気がするんだけど」
そう言う阿久津君を残して席を立つと、私はカフェを出た。
これ以上、一緒にいたら私の気持ちがもたない。
決意が揺らいでしまうと思ったから。
私に置き去りにされた形の阿久津君が慌てて会計を済まして店から走りだすのを、カフェの入口近く、お隣の雑貨屋さんにこっそり隠れて見送った。さすがに、すぐ近くに隠れているなんて思わないだろうから。
それ以来、阿久津君からの連絡はシャットアウトしている。
そうでもしないと、私の気持ちが暴れ出してしまいそうだったから。
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