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私にだって理由がある
真尋はもっと自分に自信を持っていいという。阿久津君は私にゾッコンなんだからと。
それから真尋は阿久津君の置かれている状況を逐一説明してくれた。
真尋によると、阿久津君には異母弟がいるらしい。現在、一緒に住んでいるのはその義弟と義母だとか。阿久津君のお母様は、どうやら正妻ではないらしく・・・まぁ、阿久津君がどういう経緯であの家で暮らすようになったかは知らないけど。これは初耳で・・・阿久津君から自分の家族の話を聞いたことはほとんどなかったから。
お義母様はやはり自分の息子に会社を継がせたいらしい。でも彼はまだ小さくて、お父様がいきなり倒れたため、急浮上してしまった跡継ぎ問題。お義母様と阿久津君は血のつながりはないけど、それ程悪い関係ではないらしい。
それでも、会社の後継者として、中継ぎに阿久津君はどうかという話が現社長のお父様周辺から持ち上がったら、お義母様の心情はどうだろう?
もし中継ぎだとしても、仮にも跡を継ぐなら、きちんと身も固めてもらったらどうかと、お義母様をよく思わない人たちが画策を始め・・・・的な展開でお見合いの話があったとか。将来の奥さんの実家を後ろ盾にすれば、阿久津君の長期政権も夢じゃない的な・・・・結構、込み入った家庭環境にちょっと驚く。
阿久津君はどちらかと言うと、飄々としていて、そうゆう複雑さとか無縁に見えたし。私にはいつだって、かなり甘めで、スキンシップが好きな大型犬って感じしかなくて。
でもね、そんな事情を知らなかった私だって、ただ待つだけで何もしなかったわけじゃない。なかなか阿久津君と連絡がつかない時、どうしても直接会って話したくて、真尋から聞いた阿久津君の家の住所を訪ねてしまったことがあった。阿久津君の家、スッゴク大きくて、その門扉までもが私を拒絶しているように感じてしまったことは記憶に新しい。それでも勇気を振り絞り、インターフォンを押して、阿久津君に会いたいと言ったのに、『凜杏様は会いたくないとおっしゃっています』と、とても冷たい声が聞こえてきた。先に”No”を突き付けたのは阿久津君の方だ。
それに阿久津君のお父様が経営している会社って・・・就活してたら、普通に出てくるそこそこ有名な企業だったし・・・・なんか阿久津君が一気に遠い人のように思えてきてしまった。
そんな状況で、お見合いをしていたことまで聞かされてしまえば・・・・。
釣り合いがとれてなかったのかなって、一気に自信喪失。
大切にしてもらってるって、勝手に思い込んでただけなのかって。
そんな鬱々としていた時だった。阿久津君と連絡が取りにくくなって、ちょっと不安になっていたころだったと思う。大学の校門前で高そうな車から出てきたスーツ姿にいきなり『池上真衣さんですか?』と声をかけられ、名刺を渡されて、開口一番『凜杏様には婚約者がいらっしゃいます』とまで言われたんだよ。そのスーツの初老の男性の堂島さんは、名刺の肩書を見れば、阿久津君の家の秘書兼執事みたいな人だったし。
阿久津家が跡継ぎ問題でもめていて、会社経営者でもある有力取引先の娘さんと結婚が決まり、凜杏様もこれでやっとご長男としての正式に認められる云々みたいなことまで言われ・・・その時の私は、一瞬、頭の中が真っ白になってしまったけど、いくら真尋みたいに回転のいい頭を持っていくなくても、分かってしまった。あぁ、阿久津君がお家を継ぐには、私が邪魔なんだって。
マメな阿久津君からの連絡がないのも、私の不安にも拍車がかかったのかもしれない。連絡してもコールバックも返信もなくなっていたし・・・・その秘書さんから経緯を説明された瞬間、だからかって、そうゆうことなのかって合点がいってしまって。きっと優しい阿久津君だから、自分から別れると伝えるのはしんどいんだろうって。だから連絡をとってこないんだって。
いつもと様子のおかしい私が、何も言ってこないことに真尋のイライラが募っていくのが分かっていた。それでも一応、見守ろうというスタンスだったんだと思う。でも、きっと私より先に阿久津君から別れ話の件を聞かされたのが真尋をここまで怒らせてしまった原因なんだろうな。
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