俺の話も聞いて

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「ホント、面倒くさい。阿久津から真衣と話したいから、ウチに来たいとも言われたけど、真衣の気持ちを考えると、即OKするわけにもいかなくて。だから、こうゆう面倒な話し合いを僕が代わりにしてるんだけど。ともかく、いろいろ真衣の早合点だから、一度ちゃんと阿久津と直接話して」 「だって最初にスルーしたのは阿久津君の方だし・・・・『会いたくない』って言われたし」 「まだグダグダ言うつもり?阿久津からは直接言われたわけじゃないでしょ?インターフォン越しで使用人さんに言われただけでしょ」 真衣ちゃんがウチを訪ねてきてたことなんて初耳だった。 「・・・・確かに、直接言われたわけではなかったけど、だって・・・」 スマホ越しに真尋の舌打ちが聞こえてきた。あの真尋をイラつかせるなんて、真衣ちゃんくらいだろう。 あっ、でも一人いたか。あの誘拐事件の原因になった芸能事務所に所属していた加瀬。あいつ、今、完璧に真尋の支配下にあると聞いてるけど。事務所の合併で、結局、真尋がプロデュースをサポートすることになったらしくて、ここぞとばかりに仕返しされてるんじゃないのかな。真尋を敵にまわした彼に明るい将来はあるんだろうか。『いい商品に仕上げてみせるよ』とほくそ笑む真尋には恐怖を感じることがある。あの真尋を味方につける以外の選択肢なんてある?でもその加瀬君は真尋が担当するようになってから、徐々に人気も上がってきていると聞いているから、それはそれでいいのかも。 「真尋、なんか仕事あるんじゃないの?さっきからドアの方見てるけど」 真衣ちゃんの声のトーンが変わる。なんかバレた? 「いや仕事はないけど・・・でも、そろそろいいかな。正直、今の意固地になってる真衣、すごく面倒になってきたし。」 真尋って真衣ちゃんに甘いだけじゃないんだな・・・そんな風に言われたら、絶対、今、真衣ちゃん、ショック受けてたるだろうに? 「別に真衣を泣かせたいわけじゃない。ただ拗らせ過ぎだよ。意地っ張り」 真衣ちゃん、泣いてるの?さすがに言い過ぎたと思ったのか真尋が真衣ちゃんに掛ける声が数段甘くなった。フォローのつもり?俺の真衣ちゃん、泣かせるなんて、いくら真尋だって・・・・ 「真衣、ちゃんと阿久津本人から一度、話を直接聞いてみて。その方が、やっぱり話が早いね。さもないと僕の方が、そろそろぶち切れそう。この堂々巡りに正直、かなり、うんざりしてきている」 「ゴメン、真尋、いろいろ巻き込んじゃって。阿久津君とは、きちんとさよならをしたから・・・・」 「きちんとねぇ」 真衣ちゃん、俺、サヨナラなんてしてないから。これからもするつもりはないけど。 いい加減、このドア開けていいかな? 「・・・・だからね、真衣・・・阿久津からは何度もプロポーズされてるてるよね?スルーしていたのは真衣だよね?」 真尋が説いて聞かせるような、冷静というよりもっと低い温度の声で語りかけている。 「あんなの冗談っていうか、ノリというか・・・なんなら、いつも言ってたけど。でもそれって『おはよう』みたいな挨拶として言ってただけだから」 挨拶ときたか・・・・それでも会えばいつも伝えてたつもりだ。 『おはよう、真衣ちゃん、今日も可愛いね。いつ結婚しようか?まずは一緒に暮らすところからでもOKだよ。ご両親にもきちんとご挨拶しなきゃだね』 あまりにもしょっちゅう言い過ぎたのか、聞き流されていたような気もするけど。 「・・・・いい加減、もう逃げるの無しにしなよ。ちゃんと話し合って。そんな難しい話じゃないから」 「別に逃げてないし」 真尋の深い溜息が聞こえてきた。
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