俺の話も聞いて

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ここまで真衣ちゃんに意地を張らせたのは、全部俺のせいだよな。 真衣ちゃんは悪くない。真尋だって絶対そう思ってる。 悪いのは俺だよね。 別れ話をされた当日はどうすればいいのか分からなくて、でもその晩ずっと考えた。 出した結論はシンプルで、もう真尋に縋るしかないということだった。要は真尋を味方につける。 「真衣ちゃんを真尋から、これから先も奪うようなことはしないから」 そう言えば、真尋はあっさり俺の相談にのってくれた。相談に乗るだけじゃなくて、真衣ちゃんに結婚の確約までとってくれるとまで言い出したんだ。 「二人のことは二人できちんと話し合ってもらうとしてさ。ところで、真衣、もう内定でたんだよね?」 えっと、俺と真衣ちゃんのことは、ここで打ち切り? もういい加減、このドアを蹴破りたいんですけど。いいですか? 「うん、どうにか」 「あの外資シンクタンク系?」 「潜り込めそうです」 「じゃあ、いろいろ経験積んでおいて。それで、もし僕が将来、会社を作ることになったら、真衣、手伝ってくれる?」 ちょっと待った。ここにきて話が違う方向に行ってないか?真尋にクレームの一つも入れたくなる。 「いきなり何?」 「モデル事務所の仕事も面白そうだし、父親の仕事を手伝うのも悪くないけど、やっぱり僕は僕の会社が欲しいって思い始めてね」 真尋、会社作るの?その前に真衣ちゃんとの結婚の確約は? 「何やるの?」 「まだ決まってないけど。ビジネスプランを練ってる段階かな。もし真衣が結婚しちゃっても、僕のそばにいてくれると嬉しいなって思って。あの写真集みたいに、また一緒に何かをやれたらなって、ずっと思っててね。だから先約とりつけておこうかなって思ってる」 「真尋がやることを決めたことなら、何でもサポートするけど」 これって真尋が真衣ちゃんの囲い込みに走ってるようにしか聞こえないんだけど。 「それは嬉しいな、真衣は結婚しても僕のそばにいてくれるんだ」 「真尋、私、結婚なんてするつもりないけど」 えっと真衣ちゃんもそんなあっさり否定しないで・・・真尋、ここ重要なとこじゃないか? 「・・・・『だってさ』。いつまでも、そんな調子だと真衣は渡さないよ。どうするつもりなのかねぇ、阿久津君?」 これは絶対、俺に向かって言ってるよな?もしかして、さっさと入ってこいっていうフリ?俺はドアノブに手をかけて、扉を開けた。 「『だってさ?』って、何、言ってるの、真尋?」 訝し気に呟いた真衣ちゃんはドアの音に気付いて、後ろをふり向くから俺と目が合ってしまった。 真衣ちゃんはほぼフリーズ。 「なんで阿久津君?」 「だから凜杏って呼んでって、いつも言ってるよね?」 やっと会えた。このまま会ってもらえないんじゃないかと不安になったこともあったけど。 「勝手に俺の結婚相手とか決めないでほしい。俺が真剣に結婚を考えてるのは、後にも先にも真衣ちゃんだけだよ。お見合いの彼女とは何もありません。きちんとお断りの連絡を本人にもご両親にも伝えてあるしね。あと、さっき真尋が言ってたことは本当だから。真衣ちゃんのご両親には結婚のお許しをもらう予定。真衣ちゃんのご両親への挨拶が済んだら、ウチの両親にも会ってもらわなきゃね。親父ももうじき退院できそうだから、そのタイミングで。いろいろハッキリさせておかないと、周りが勝手に勘違いするから、結婚はナルハヤでお願いします。あと俺が相手なら、真衣ちゃんが真尋を優先することは目を瞑るから」 俺は一気にまくし立てた。 「たまにで済むはずないけどね」 真尋のつぶやきはスルーで。 「そもそも、阿久津君がなんでいるの?」 真衣ちゃんのフリーズが溶けて、戦闘モードにチェンジしたのが声のトーンから分かる。睨んでくる真衣ちゃんも可愛くて、俺ってS系要素まで持ち合わせていたのかって自覚してしまった。 「プロポーズは何度もしてるよ。真衣ちゃんの潜在意識にも覚え込ませるくらいには・・・・」 「だから私、結婚する予定なんてないし。仕事、頑張るって決めたの」 「仕事は仕事で頑張ればいいんじゃない?それに真衣ちゃんは俺のこと嫌いなの?俺は真衣ちゃん以外考えられないんだけど?違うの?真衣ちゃんは好きでしょ、俺のこと」 ちょっとズルいかとは思ったけど、俺だって言わせてもらう。 「嫌いじゃないけど・・・・」 先に視線を外したのは真衣ちゃん。悪いけど、この勝負は譲る気はさらさらないよ。真衣ちゃんの顔が怒ったり、困ったりと忙しい。 「俺はずっと真衣ちゃんのことが好きだったし、これからもその気持ちは変わらない」 真衣ちゃんの顔がみるみる赤くなっていった・・・・ゴメンね、こんなに意地を張らせてしまって。でも、もっと確定的に物事を進めておくべきだったのかもしれない。 俺は真衣ちゃんのすぐそばに移動して、華奢な肩を抱いた。真尋が面白くなさそうな顔で俺を見ている。真尋の手にあるスマホは録音中が表示されていた。 真衣ちゃん追い込み作戦スタートです。 もう逃がさない。
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