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再び手術が必要です
そんな心配そうな顔で僕を見ないで、真衣。
「真尋、ゴメン、私、自分のことばっかりで気がつかなくて・・・・」
さすがにここまでくると罪悪感・・・これ以上は無理だなと思いながら、涙が止まらなくなりそうな真衣の頭にポンポンと触れる。
「心配しなくても大丈夫。虫垂炎だから?」
「ちゅうすいえん?」
「盲腸って言えばわかる?」
「もうちょう?」
絶対、これ、真衣、頭の中で漢字変換出来てないヤツ。
「真尋、腹痛起きるたびに散らしてたんだけど、先生から限界だから手術した方がいいって言われてたんだよ」
ここでさすがに僕の迫真の演技に付き合うのを止めたらしい阿久津が正解を言ってくる。抱きしめようとしていた真衣を僕に取られたから、仕返し?
阿久津はさっきまでの気まずそうな顔から、薄く笑う余裕まで出来たらしい。
暫くの沈黙の時間の後、真衣の中でいろんなことが、やっと結びついて理解したらしい。
「虫垂炎って・・・・」
「切除すれば1週間で回復するやつ」
僕が言えば、真衣の目にドンドン怒りが溜まっていくのが分かった。
「真尋」
「うん?」
「どれだけ心配させれば・・・・」
「ということで、僕が留守の間は真衣がまた家に一人になっちゃうから。阿久津がちゃんと番犬として活躍してね。それから真衣は阿久津との結婚を了承したってことでいいよね?そして将来的には僕の起業にも付き合うってくれるとも約束してくれたし」
「結婚とかって、そんなの了承してないし・・・・」
「諦め悪いよ、真衣。録音済みだから」
僕はスマホを真衣の前にかざす。
「俺じゃ不満なの?」
脇にどかされている状況に我慢が出来なくなったのか、阿久津の声はいつもよりちょっと低め。
「不満とかじゃなくて・・・・だって」
戸惑う真衣の前に躊躇いもなく、いきなり跪く阿久津。
「真衣ちゃんがいいんだ。結婚して欲しい。真衣ちゃんは俺の言うことだけを信じてくれればいい。俺のこと、今でも好きだよね?」
あっさり真衣の左手を捕まえた阿久津は真衣の返事を待たずにリングをはめてしまう。
ほお、ここまで用意してましたか?
「私、まだ返事してないし。それにこの指輪、なんか大きい」
ここはきちっと決めて欲しかったのに、阿久津。サイズぐらい確認しておけって。
「サイズは微調整可能だって言われてるから大丈夫。で、返事は?」
「・・・・勝手に指輪を先にはめておいて、返事って・・・・そもそも順番違うし」
普通はOKの返事もらってから、指輪ははめるもんだと思うけどね。
「じゃあ、はめちゃったからOKっていうことで理解していい?」
ちょっとふくれっ面の真衣はこのままだと絶対また意地を張る。
そうすると、また阿久津がアタフタとしだして、墓穴ほりそうだし・・・
もういい加減終わらせたい、この茶番。
せっかくの記念すべきプロポーズなんだから、しっかり決めろよ。
「返事がない沈黙はYESという理解でいいんじゃない?」
僕が再度、助け舟を出す。さっさと話しを纏めろ。
真衣はホント自分の気持ちに素直じゃない。でも、僕の言ったことに反論してこないってことは、肯定ってことになるよね。
「真衣から異論がないようだから、これはこれでちょっと癪だけど、凜杏義兄さんになるわけか。僕が会社作るときは、真衣だけじゃなくて、阿久津からのサポートも受けられそうだね」
跪いたままの阿久津は、うまく表情を作り出せないまま、僕を見上げた。
「真尋、何、企んでる?さっきから、起業、起業って?そりゃ、真尋がやることはもちろん手伝うけど。なんて言っても、俺ら義兄弟になるわけだし。でも変なことには手を出さないよな?」
最後の『義兄弟』フレーズを妙に強調してきたな。阿久津とマジで兄弟とか、結構ウザいけどね。それも、こっちが弟とかって・・・
まぁ、これで真衣を僕サイドに残せるのが確定したから、ヨシとするか。
「う~ん、まだラフ案レベルなんだけどね。将来の阿久津真衣さんと凜杏義兄さんからのサポートが確定したとなると、敵なしかな。イリーガルなことはしないから安心して」
「何、その阿久津真衣って・・・・そんな先のことは分からないし」
僕は録音を続けているスマホを振った。
「まだ言う?諦め悪いよね。結婚を承諾したことは、これが証明してくれるんじゃない?」
「真尋、もしかして、その録音って、最初から私に結婚すると言わせるつもりだったってこと?」
真衣は怒りの対象を僕に向けることにしたらしい。
そんなこと言ったところで、真衣より僕は役者が上だよ。
「この録音データ、阿久津、買い取らない?」
「言い値で買い取ります」
即答だね。
「・・・・・あぁ、もしかして、もしかしてグルな訳?二人とも最初から・・・・」
今更、そんなこと言っても遅いよ、真衣。
「まぁ、そんなとこ。このぐらいしないと真衣、本気で別れるつもりだったでしょ、阿久津と」
ちょっと俯く真衣・・・図星だよね。
「それはさすがにキツイよ、真衣ちゃん。どんな手段使っても阻止するつもりではあったけど」
阿久津君は真衣の左手の薬指にキスをしながら、立ち上がった。
「二人で共犯なんて、なんかズルくない?」
「狡さで言えば、こっちの気持ちも考えないで、さっさと自分だけで結論だして、別れるとか決めちゃう真衣ちゃんはどうなの?」
珍しく反撃に出たな、阿久津。
いつも真衣に一歩譲っていた凜杏君がねぇ・・・・
まぁ、僕は自分にメリットがある方についただけ。
「そんなの・・・・」
真衣もいい加減、負けを認めたら?
よし、ここでダメ押し。
「凛杏兄さんからのサポートとは、つまり阿久津グループが資金面でもバックについてくれるという理解でいい?」
「まぁ、どっちにしろ、俺、中継ぎだけど、その間だったら、投資できると思うよ、真尋の作る会社にも。社長の決裁権限、乱用でもしようかな」
阿久津は父親から社長の中継ぎをする代わりに、結婚相手は自分で決めると承諾を取ったという。プライベートには今後一切、口出し無用ということで一人暮らしの物件を見つけてるって。出来れば、真衣と一緒に暮らしたいらしいけど。
大学を卒業したら、当面、社長補佐っていう感じで下僕のように働かされるのが確定らしいけどね。だから、せめて真衣との時間が取りやすいようにって、必死なんだろう。
真衣の完敗が決まったと思うよ。
だって、真衣、阿久津のこと、好きでしょ?
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