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阿久津君の残念な日~番外編~
「凛杏さん、本日の社長のご予定ですが・・・・聞いてますか?」
あさイチで吊るし上げに合う所だった。
秘書課の人たちと、いつも通りの朝の打ち合わせの時間。
本日のスケジュールの確認。現社長である父に同行する案件が午前中に2つ、帰社後、資料作成、午後は父を接待会場に送れば解放される。これからの9時間さえ滞りなく過ぎて来れれば・・・・
「大丈夫です。頭に入ってます」
そう、今日さえ乗り切れば、明日から念願の真衣ちゃんとのお泊りデートが待っている。
真尋が出張で家を空けるというタイミングで、真衣ちゃんも俺も休日出勤が珍しくない今週末。
やっとのことで手に入れた二人だけのラブラブ出来る1泊旅行。奮発してちょっといい露天風呂つきのお部屋を予約しちゃったし。どうしたところで、顔がにやける。
これのために、ここ3週間は残業につぐ残業でかなり疲弊しているのは否めないけど、とうとう報われる。
「何かいいことでもあったんですか?顔がにやけてますよ」
打ち合わせ終了後、冷たい眼差しで、からかうように言われてしまう。彼は阿久津家の家の裏事情をも仕切る執事の堂島の息子、堂島孝志。今の俺の直属の上司。
年齢はもうじき30歳の独身、俺の7つ上だ。
ごつい強面系の父に似ず、爽やかな人当りのいいイケメン眼鏡。秘書課の女子課員たちだけでなく、他部署からの飲み会のお誘いも後を絶たない。
「いや、明日から真衣ちゃんと・・・・」
言いかけて止めた。この人に余計なことを言うと、良くないことが起きそうな気がするから。俺のガキの頃から付き合いのある彼には、真衣が両親公認の間柄であることは報告してある。それについては彼の父親と違って、とやかく言ってくることはない。『今どき政略結婚もないでしょう・・・・』と言われてホッしたものだ。
「デートですか?また双子の兄の邪魔が入らないといいですね」
その予言めいたことは言わなくていい。真実になったらどうする?
「真尋のこともご存じでしたっけ?」
「父に相当なクレームをつけてきた張本人ですから、堂島の家では真衣さんとセットの有名人です」
「そうだったんですか?いろいろご迷惑かけたりしましたか?」
「姉想いの方ですね。重すぎるくらいに。でも、あんな小姑がいると凜杏さんも大変ですね」
嫌味っぽく微笑まれた。真尋、何を言ったんだろう・・・・あいつのことだから、きっとろくでもないことをしたのに決まっている。想像がつくだけに怖い。
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