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「お疲れ様です。アーサー、マリリンさん。下等魔物駆逐に七五時間ということで、一万リロ。ランク昇格はありません」
冒険者ギルド本部に着くと、窓口係りが事務的に報酬を告げ、中銀貨一枚をさし出してきた。
中銀貨一枚。それは宿に一人一日しか泊まれない金額。
「は。おい。下等魔物って言っても、数がはんぱなかったんだぞ。しかも、なぜか炎耐性を持ってたし――」
「我々ギルドの報酬は能力に基づいて算出しています。同意できない場合、没収となりますがよろしいでしょうか」
「そんな――」
「よろしいです。さ、行きましょ」
マリリンは俺の腕をつかんでさっさと本部を出た。
石畳の街道をローブのすそをひらめかせて闊歩し、イケメン勇者姿の俺を引っ張る。
「行くって、どこに行くんだよ。カネももうないしさ」
「そうね。その剣を買わなければ今ごろ一軒家でのんびりできていたわね。なんて、今は言わないわ」
裏路地にはいり、マリリンの足と始まりそうになった小言も止まった。
「ねぇ、おかしいと思わない?」
声をひそめて、珍しく難しい顔になった。
こういう彼女を俺は見たことがある。
「女の感か」
「うん。女の感なんだけどね。私たち以外にもだまされている人いるんじゃないかしら」
「やっぱりそうだよな。俺たちだまされたんだよな。
農民からの畑を荒らす下等魔物駆逐依頼なんて言われたら、あんなに手こずるなんて思わないよな」
興奮する俺の口に、人さし指が押しつけられた。静かにしろということだ。
「もうここは終わりに近いわ」
俺がだまると、マリリンはピンクのツインテールを揺らしてうなずき、女の感という推理を続けた。
「だから簡単にレベルあげできないようにしてるのよ。冒険者減少を止めるために。ある程度まで達成すると離脱する人が出てくるからね」
「そんなこと俺はしないけどな。一生懸命に使命をまっとうするんだ」
「それはご立派なことで。けど、もうここでは見返りを期待できない。身体を無駄に酷使するだけよ。あなたの二つとない身体をどう使うべきかよく考えてほしい」
それは、端的に言えば「身体を大事にしてくれ」ということ。
ふわついたルックスに似合わず、真剣なまなざしはしっかりものの妻だ。
愛情を感じるそんな目に、俺は弱い。
「わかったよ。ここを出よう」
笑みがこぼれた。
なぜこんなにもマリリンにたやすく操られてしまうのだろうかと。
べつに俺は魔術を施されたわけではない。彼女の魔術は風を起こして俺の炎剣の力を倍増させるのと、盾を作成してくれるぐらいだ。
「きもっ」
操るうまさに感心して見つめた顔は、半笑いだったのだろう。マリリンはここから俺から逃げるように多機能腕輪にある脱出ボタンを押した。
嫌悪感たっぷりの表情とともに消えていく。
「え。ちょっと、」
追いかけるように俺も脱出を開始した。
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