人生に休憩を

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人生に休憩を

憩吾(ケイゴ)が大学生になってから早二年、入学と同時に始めた飲食店のバイトも随分と板についた。 八月で学生が夏休みということもあり、カフェに近い店内は客の流れが普段より早い。 「憩吾くん、これを片付けておいてね」 「はい!」 食器を厨房へ持っていこうとすると、一人の少女が目の前を横切った。 最近入ったばかりの新人バイトで安未果(アミカ)である。 ―――・・・安未果さん、大丈夫かな? 憩吾は彼女のことが気になっていた。 だが気になっているといっても恋愛的な意味ではない。 ―――高校の夏休みの期間だけバイトをするんだったよね。 ―――青春真っただ中だというのに、偉いなぁ。 安未果は真面目な性格で、黙々と仕事をこなすところを尊敬していた。 すれ違った先で先輩と安未果のやり取りが聞こえてくる。 「安未果ちゃん、大丈夫?」 「・・・」 「話でも聞こうか? 何かあったら言ってね?」 憩吾だけではなく、やはり客観的にそう思われているのだ。 彼女は頷くばかりで、弱音を吐いたり相談しようとしたりはしない。 ―――安未果さんはいつも自分の気持ちを表に出さない。 ―――だけど何かを抱えているだろうということは見ているだけで分かる。 ―――いや既に、仕事仲間から心配されている・・・。 安未果には笑顔がないのだ。 いや、接客している時の営業スマイルは上手くやっている。 しかし、心から笑っているところを見たことがない。 ―――だけど俺たちに出番はなさそうなんだよな。 性格からか周りに頼ろうとはせず全てを自分でこなしてしまうのだ。 それで失敗するのなら指導しなければならないが、幸いなことに今のところは失敗がない。 「安未果ちゃん、手伝おうか?」 「いえ、結構です」 仕事上での性格がプライベートと大きく外れることはないように思う。 もちろんこれは憶測でプライベートでははっちゃけている可能性もあるが、どうにもそうは思えなかった。 ―――・・・バイトの先輩として、頼ってほしいという気持ちはあるんだけどな。 一緒に働く期間が短いといっても仕事仲間と過ごす時間は大切にしたいと憩吾は思っている。 「憩吾くん、上がっていいよー!」 「あ、はい! お疲れ様です!」 先輩から声をかけられ後片付けを終えると控室へと戻った。 すると数分差で安未果もやってくる。 「安未果さんも今日は上がり?」 「はい」 一緒に上がる時間は珍しく、何気なく声をかけたつもりだった。 「そっか。 安未果さん今日は午前中からずっと働いていたよね?」 「そうですね」 「今日もお疲れ様。 長い時間、よく頑張ったね」 「ッ・・・」 「ん?」 安未果が何かに反応した。 だが首を振って素早く着替えを手に取った。 「いえ。 ・・・ありがとうございます」 そしてぎこちない挨拶をして更衣室へと向かっていった。   ―――今日はたまたま終わる時間が一緒だったから、ああ言ったけど・・・。 ―――何か気に障るようなことを言っちゃったかな? そう考えると少し不安になった。 だがしばらくしても安未果は戻ってこない。 当然一緒に帰る約束をしているはずもなく、憩吾は先にバイト先を出た。  それから数日して憩吾が大学で講義を受けている時だった。 ―――・・・ん? スマートフォンが鳴ったため見ると、どうやらメッセージが届いたようだった。 ―――・・・安未果さんからか。 シフトの連絡や非常時のこともあり、バイトで同時間帯に入るメンバーは連絡先を交換している。 普段はあまり使うことのなかったもので、特に安未果からとなると初めてのことだ。 何事かと思いメッセージを開いてみると仰天することになる。 『死にたい』 それは安未果からのSOSだった。
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