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 気が張っていたのか、スマートフォンが振動するとすぐにはっと体を起こし、立ち上がり仮眠室を出た。洋二はまだ誰もいない大浴場の更衣室でばっと服を脱ぎ、洗い場の鏡の前で体を隅々まできちんと洗った。タオルを借りるときに一緒に買った安物の髭剃りで何度も髭をそった。湯気ですぐに見えなくなる鏡を手で拭っては、自分の首元や口周りをしつこいくらいに確認した。  浴槽につかりふう、と息を吐く。気が済むまで浸かると大浴場を出て、更衣室で昨日買って来たスーツに着替えた。タグは全て歯で引きちぎり、ごみ箱のあたりに放った。  たたみ皺が多少気にはなったが、昨日までのボロボロのトレーナー姿と比べれば大分ましだった。着てきた服を量販店のロゴが入ったビニール袋に突っ込むと、更衣室を出た。会計を済ませ、健康センターを出る。駅前の方に歩くと夜とは比べ物にならないほどの人がいて、洋二は少しうんざりしながらその人混みに揉まれた。  駅のロッカーに汚れたボストンバッグを入れる。ロータリーのベンチに座り、昨日届いたメールをもう一度確認した。持ち物は特になし、履歴書も不要。指差し確認をしながら、よし、と思う。  時間が二時間ほど余ったので、地図を頼りに面接会場を通ってみることにした。地図を拡大表示して歩く。駅徒歩五分の指定通り、大して歩くことなく目的地に着いた。
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