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 目を開けても、真っ暗だった。体を動かそうとすると体に痛みが走り、ようやく自分が覚醒したことを知る。周囲を見回す。それからポケットに入っていたスマートフォンを取り出し、サイドボタンを押す。急に飛び込んできた光で、目が痛くなった。  どうやら丸一日寝てしまっていたらしい、とスマートフォンに表示された時間と日付で悟った。洋二は尿意を覚えて立ち上がり、ボストンバッグをその場に残したまま、歩いてトンネルの外に出た。  体は痛いが、動かせないことはない。ほっとしながら川の傍まで歩き、川の水めがけて用を足した。水面が月の光を反射してきらきらと揺れるのを見て、何故だか少し愉快な気持ちになった。  誰ともすれ違うことなく、トンネルの中まで戻った。とにかく、今後のことを考えなくてはならないな、と洋二は思った。少し考えようと思ったところで、洋二の腹が威勢よくぐうと鳴いたので、まずは腹ごしらえをしなければ、と財布の中身を確認する。  全然入っていなかった。そうか、そもそも入っていないから元同僚(あいつ)の財布に手を出したのだった、と洋二は思い出した。給料日は明後日だったのに、もう貰いに行くことも出来ない。では、どうするか。考えるまでもない。  夜の闇に紛れて、移動を開始した。  途中、公園に設置された公衆トイレに入り、ばしゃばしゃと顔を洗って鏡を見た。幸い顔のあたりに目立った傷はない。洋服の袖をまくると腕と脇腹にあざが出来ていることが分かった。袖を元通りに戻し、公衆トイレを出た。
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