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「中でも、彼が好んで描いたのは五人。踊り子のリリアン、カフェ店員のバーバラ、家庭教師のエレノア、公爵令嬢のカリスタ、農家のアビゲイル。学芸員を目指すなら、メリアスが彼女達をどう描き分けていたか教わったろ?」
「確か、色ですよね。リリアンは……」
思い返そうとしたが、考えている時間が惜しいのかギルさんがさっさと解答してしまった。
「情熱的なリリアンは赤。陽気なバーバラは黄色。冷静なエレノアは青。内気なカリスタは紫。癒しのアビゲイルは緑。この絵の中にも、どこかに色が隠れているはずだ」
「でも、こんなに霧がたちこめていたら色も何も見えません」
「そこが厄介なんだよなー」
「顔立ちとか服装とかで彼女達を見分けられれば良いんですが」
「黒霧に覆われすぎて顔立ちは判別不可能だった。服も黒っぽくてよく分からない。ただ、絵の女性の腕に収まっていた男性はメリアスだろう」
「んー……」
「何だよ、その納得してない顔は」
ギルさんは訝しげに私の顔を覗きこんできた。
「違和感があるんですよね。瞳の画家と言うわりには、瞳から感じる感情が違うような」
「具体的には?」
「絵の女性の瞳からは、愛しさとか優しさとか、そういうものを感じたんですよ」
「好きな男を見る女はそんな目をするだろう」
「……でも、何か違うんですよね」
「根拠は?」
「……女の勘」
絵画潜入修復師でもない一介の学生の勘など、根拠としては乏しい。苦笑してうつむいた後に、私を見つめるギルさんの目は実に愉快そうに笑っていた。
「そういうの嫌いじゃない。確かめてみようか。フィオの勘が正しいかどうか」
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