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探索
今見ている町は確かに慣れ親しんだ城下町に他ならない。だが、黒霧のせいでまるで死の雰囲気をまとっていて恐ろしい。
前を歩いているギルさんは、注意深く一軒一軒の窓を覗いて中の様子を確認したり地面や建物をじっくり眺めていた。手がかりとなるものを取りこぼさないように。
私も見様見真似で見ていたが、素人目では何を見ていいやら分からずに断念した。
立ち止まり、ため息をついたギルさんは首をひねっていた。
「おかしい。絵に描かれている女性も、メリアスもここにいる気配がない」
「普通は、探せば描かれた人達はいるんですか?」
「たいていそこら辺を歩いてる。若干ではあるが人の気配はあるんだが……彼らではない気がする」
「一体誰の気配なんです?」
「この絵に悪意を持って加筆した者の記憶が、侵食し始めているのかもしれない」
ギルさんは、一際険しい顔をしている。それがどういう意味なのか、絵画潜入修復師を目指す学生である私にも分かり、背筋が凍った。
黒霧に脅かされて悪質な加筆をした者の記憶が覆い尽くせば、本来の記憶は失われる。
本当の記憶を失った絵画は、永遠にこの世から消滅してしまう。
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