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ひどく建物が込み入った横道だ。確か、現在この道沿いには建物はない。数十年前に火事が起きてからは更地になっている。
その通り沿いの他の建物の隙間に埋もれている小さな家が、そこに夜の闇を封じ込めたように黒く塗りつぶされていた。
ここに、違いない。
すぐにギルさんを呼んで確認してもらえば「でかした」と肩を叩かれた。
小さな家は、濃い黒霧による威圧感で近寄り難い。ギルさんは慣れているのか特に気にすることもなく、ぐいぐいと黒霧の中へ突き進んで、姿が見えなくなった。
「フィオ、あったぞ! こっちに来い!」
心を決めて黒霧の中へ身を投じた。身体中を凍てつくような空気が包み込み身震いした。
視界は悪く、当てにならない。手探りで前へゆっくり進むと、突然黒い世界からにゅっと手が伸びて私の腕を掴んだ。
「ぎゃあっ!」
「俺だよ、俺」
ギルさんの声に安堵したのも束の間、今度はぐいと引っ張られ、あれよあれよと言う間に黒霧の奥へ引き摺り込まれていく——。
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