迷子

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 夜の静寂の中、私がうろうろと歩き回る靴音だけが響いている。時折、場所を確認するためにランタンを振り回し、絵画と目があって悲鳴を上げた。  夜中に絵画を見ると、どうも不気味だ。  絵画を含めた芸術作品には、作者や描かれた人達の想いや記憶が宿っていると言われている。子供の頃、安易に描かれている人の瞳を覗き込むと絵の世界に引きずり込まれるぞ、とよく脅されたものだ。 「夜が明ける前に、ここから出られるかな」  半ベソをかきながら尚も突き進むと、明かりが漏れる部屋が目についた。その明かりが船乗り達を救う灯台のように見え、縋るように部屋へと近づいていく。  ドアをゆっくり開けて見れば、そこは広々とした作業場だった。壁沿いには箱が敷き詰められた棚が置かれ、床には梱包材やら木箱やらが散乱している。  中央に、イーゼルに立てかけられた絵画がある。いや、絵画というよりも額にはめられた黒い紙のようだ  その前に、男がいた。  金色の短い髪に青い瞳を持つ男は、私よりも少し年上の二十代後半くらいの印象を持つ。白いシャツにこげ茶色の細身のパンツ、黒いブーツを履いて仁王立ちで絵画を眺めている。
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