6人が本棚に入れています
本棚に追加
声をかけようとすると、突然男が片手を絵にかざした。
「我、真の姿を探す者なり。閉ざされし心を開きたまえ」
男の声に応えたのか、黒い紙は鈍く光ると瞬く間に男の体を吸い込んでいってしまった。
「ちょ、ちょっと!」
慌てて紙の前に走り寄れば、既に男の体はなくて愕然とする。
よくよく見れば、紙を黒く見せていたものが霧のような物体であることに気がついた。霧の中、腕の中に男性を抱えた女性の姿があり、互いに見つめ合っている絵が透けて見える。その瞳に違和感を覚えたのも束の間。
じろり。
絵の女性が、伏せていた目を持ち上げて私を見つめてきた。力強くも、悲しそうに私に何かを訴えてきている。その瞳に囚われ、身動きがとれない。
「——って!」
絵から鈍い光が差し込み、私の体を引きずり込んでいく。逃げようと踏ん張っても、凄まじい引力の前に私の抵抗など無力だった。
あっという間に光に包まれ、私は絵の中に吸い込まれていった。
最初のコメントを投稿しよう!