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訳あり
名前は、と問われたので「フィオレンサ•ナイトレイ」と答えた。
「皆からはフィオって呼ばれてます」
「俺もそうさせてもらうわ」
屈託なく笑う姿は幼く見えて、ギルさんの年齢が分からなくなる。
「君、学生?」
「はい。サミュエラ大学で学芸員を目指しています」
「サミュエラ大学は俺の母校だ。よろしく、後輩」
手を差し出されて応じれば、がっちり握手を交わされる。
「で、見たところまだ二十歳を過ぎてなさそうだけど、未成年は夜警なんてできないはずだ」
数々の絵画を見てきただけあって、人を見定める目も肥えているのだろうか。ギルさんの前ではいくら化粧で誤魔化しても通用しないようだ。観念して、本当のことを告げる。
「あと一週間で二十歳なので、ほぼ成人です」
「何故年齢を偽ってまで夜警を?」
「お金が入り用で。どうせ働くなら博物館が良いと思いまして」
早口で捲し立ててみたが、ギルさんは全く納得していない様子だった。
「私のことはもういいじゃないですか。それよりも、憧れの絵画潜入修復師の仕事を是非とも間近で見てみたいです! お邪魔はしません。あー、わくわくしてきた!」
声を高くして目を輝かせ、大袈裟に興奮している演技をすれば「そうか?」と満更でもなくはにかんで笑った。
「迷ったのも何かの縁だ。ついてこい、はぐれるなよ?」
身の上話を回避できてほっとしていると、ギルさんは黒い霧の中を迷わずずんずん進んでいった。
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